澪標 ―みおつくし―

前に歩いていくために…教育にできること

藤田 美保
認定NPO法人箕面こどもの森学園校長
2018年11月2日

 人生の中で、ある日突然、思いもよらなかったことに遭遇することがあります。事故や災害、病気などで大切な人を失うこともあるでしょうし、大切な人やご自身が大けがをしたり大きな病気になったりして、後遺症が残ってしまうこともあると思います。大切な財産や穏やかな生活を一気に失うこともあるでしょう。

 こうした出来事は、何の前触れもなく私たちの前にやってきて、「まさか、私が…」と思っている内に、受け入れがたい現実を突き付けてきます。その中で、私たちはあまりにもの出来事を悲しいと感じることすらできずに、何度も自分を責めてしまいます。自分の心はずっしりと重く止まったままなのに、自分たち以外の周りは、まるで何事もなかったかのように、以前と変わらず見えることに、寂しさや焦りを感じることもあります。

 絶望の淵(ふち)にいるようなとき、私たちにまず届いてくるのは、周りの人のあたたかさです。家族や友人、同僚など、今まで身近にいた人だけでなく、病院のスタッフ、ボランティアの方など、今まで出会ったことがなかった人たちのあたたかさに触れることが増えます。

 こうしたあたたかさに支えられ、私たちは少しずつ、自分の身に起きた出来事について語ることができるようになっていきます。そして、人に支えられ、出来事について語っている内に、自分にできることを少しずつ始められるようになり、自分の現状と自分自身に向き合っていけるようになります。

 箕面こどもの森学園の教育には、大切な四つの柱があります。一つ目は自己肯定感を育むこと、二つ目が自己決定すること、三つ目が対話して物事を決めたり学んだりすること、最後の四つ目は、自分と社会(周り)とのつながりを知り、自分にできることを引き受けていくことで、ESD(持続可能な社会を担うための教育)と呼ばれています。

 教育現場においては、土台となる自己肯定感の形成から始まり、自己決定や対話する力を育み、自分と社会とのつながりに関する学びへと子どもたちをサポートしていきます。その一方で、思いもよらなかったことに遭遇したときは、まずは周りのサポート(社会とのつながり)があり、誰かと対話することができ、自分で決めることができ、ゆっくりではありますが、自分と向き合い自分を受け入れ、「それでも自分は大丈夫」と思える自己肯定感にたどり着くという逆のプロセスが起きるように思います。

 ある日突然、思いもよらなかったことが起きたとき、それでも前に歩いていくためには、その人の中でどれだけ自己肯定感が育まれているのか、どれだけ自分で決める力があり、人と対話することができ、周り(社会)を信じられるのかが大きな底力になるように思います。教育現場で大切なことは、この底力を丁寧に一人一人の子どもたちの中に育んでいくことだと考えます。

 このコラムが一人でも多くの人に届き、こうした底力を育む学びの場が増えていきますように。そして、このコラムが誰かを勇気づけるだけでなく、私自身をも勇気づけてくれますように。

 (ふじた・みほ、大阪府箕面市)



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