来阪catch

SFの外側の面白さ

映画「散歩する侵略者」
監督 黒沢 清
2017年9月9日

夫婦の信頼再構築

「いかにリアルに描くかは難しいけれど、侵略SFは面白かった」と話す黒沢清監督=大阪市内
松田龍平(左)と長澤まさみ=(C)2017「散歩する侵略者」製作委員会

 黒沢監督は大学時代から自主映画を撮り始め「神田川淫乱戦争」(1983年)で商業監督デビュー。その後、「CURE」「ニンゲン合格」などホラー路線で人気を集め、ベネチア国際映画祭に出品された「叫」を経て、「トウキョウソナタ」(2008年)がカンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞、そして「岸辺の旅」(14年)が同映画祭監督賞を受賞し世界にその名が知られている。

 「元々、ホラー映画が好きで、それを撮っているうちに人間ドラマが膨らんでいって、いろんなジャンルに挑戦するようになった。今回は舞台の映画化で、作者の前川知大さんが小説化された時に読んで映画化したいと思った。ただ、SFものだったので、日本映画で描く難しさがあって、実現まで10年かかっている」

 舞台は前川が主宰する劇団イキウメが05年に初演し、その後数回再演された人気作。「話は侵略者の宇宙人が地球にやって来て侵略する話で、人間の身体の中にある概念を盗み、宇宙本部にその情報を送り、総攻撃につなげるという設定になっている」

 松田龍平扮(ふん)する男が妻(長澤まさみ)にある日突然、「僕は宇宙人だ」と告白する。「誰でも『ええっ?』となるし、うそだと思う。舞台なら、そのセリフが成立する空間があるが、映画はリアルだから無理がある。そこをクリアするところから映画の撮影は始めなければならなかった。松田さんがニュートラルになって取り組み、長澤さんがそれを受け止めてくれた」

 夫婦関係が壊れかけた2人が、その信頼関係を取り戻していくというプロセスがSF展開にクロスしている。「長澤さんは侵略者という事象を受け止めながら、その中にいる夫の人間性を認めていくようなヒロインを上手に演じてくれた。彼女とは初めて組んだ仕事だったが、チャレンジ精神がすごく、若いけれど往年の大女優という雰囲気があった」

 もう一つ、アウトローの記者に扮した長谷川博己が、若い男女の侵略者(高杉真宙、恒松祐里)に出会う話が交錯する。「こちらは長谷川さんが侵略者の論理に対峙(たいじ)しながら、だんだん壊れていく過程をある種鬼気的に演じてくれた。夫婦の話とこちらの記者が引き受ける話の結末は、多分に映画的な見せ場になっているので、期待してほしい」

 SFは「リアルにやるには難しいけれど、何でもやれるから楽しい」と言う。「同時にSFの外側にいろんなドラマが生まれてくるのも面白い。戦争という意味では、メッセージ性があってもおかしくない」



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