日曜インタビュー

狂気的暴力の連続

映画「ディストラクション・ベイビーズ」
 監督 真利子 哲也
 主演 柳楽 優弥
2016年5月22日

理屈のない熱と念を

「何を考えているのかを考えながら…」と話す柳楽優弥(右)と真利子哲也監督=大阪市西区の新通ビル
柳楽優弥(右)と菅田将暉=(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

 若手の真利子哲也監督が柳楽優弥主演で撮った映画「ディストラクション・ベイビーズ」(東京テアトル配給)がテアトル梅田となんばパークスシネマで上映されている。主人公の狂気的な暴力を扱った作品で「やべえな、これ」という真利子監督と、「理屈のない熱と念を感じて演じた」という柳楽のコンビに話を聞いた。

■松山市で取材

 −真利子監督初の商業映画になる。

 真利子 ある仕事で松山市に行った時に聞いた話が興味深く、そこに住み込んで、その話を裏付ける取材をしながら、脚本を書いた。それは10代から路上でのけんかを生業(なりわい)のようにして生きていた男の話。ちょうど「桐島、部活やめるってよ」を見て、脚本の喜安浩平さんが松山市出身と知って声をかけ一緒に脚本を書いた。

 −主人公はひたすら暴力を繰り返す芦原泰良(柳楽)だ。

 泰良は弟の将太(村上虹郎)と2人暮らしで、港の造船所近くのプレハブ小屋に住んでいて、町の人間とけんかばかりしている。ある日、すれ違っただけのミュージシャンの男にけんかを売って、うかつにも負けて、時間をおいて相手の居場所に乗り込み、徹底的にやっつける。この役をやれるのは柳楽優弥しかいない。

 柳楽 監督はインディーズ映画の巨匠と聞いていたが、初めて会って面白そうな人だったので脚本を読ませてもらった。最初は「喧嘩(けんか)のすべて」というタイトルだった。泰良という主人公はほとんどセリフがない。そしてけんかばかりしている。理屈がなく、ただそこに「熱」と「念」があるのは分かるような気がした。

■「楽しければいい」

 −泰良の行動を見て高校生の北原裕也(菅田将暉)が近づく。

 柳楽 裕也は泰良の暴力に魅せられたように近づき、虎の威を借りたキツネのように、行動を共にし、暴力行為をエスカレートさせていく。彼が「なぜ、暴力をふるうんだ?」と聞くと、泰良は「楽しければいい」と応じる。セリフはそれだけ。監督に「それだけ?」と聞くと、「俺も分からない」「分からないから映画を撮っている」と。

 真利子 暴力を肯定しているのではない。「なぜ?」と言われると、言葉にならない。松山にあるお祭りに「けんか神輿(みこし)」というのがあって、それは、昔から農業と漁業の関係者の間でけんかが絶えず、そのために年に1度お祭りで公にけんかさせて発散させていると聞いた。世の中で「なくならないもの」の一つなのかもしれない。

 −泰良はしかし、やられても、やり返すので、怪物的だ。

 柳楽 監督に「タクシードライバー」や「ファイト・クラブ」の主人公へのリスペクトがあるような気がした。ダーク・ヒーローで、ほとんどしゃべらないが、どこかユーモアもあるような気がする。ボロボロにやられても、また立ち上がって、向かって行く。

 −「もう、やめとけよ」と声をかけたくなる。

 真利子 けんかして、勝っても、負けても、泰良は去って行く。そして、再び姿を現しては、まるで昨日の続きのように、けんかをしている。瀬戸内海の海は穏やかなのに、町では泰良が暴れている。彼の行動はつかみどころがないが、行動はぶれてない。僕としては「彼」を追うしかない。

 柳楽 普段、けんかはほとんどしないし、したくもないが、撮影中はずっとけんかしていて、その準備のために毎日ストレッチをして現場に行った。アクション指導のスタッフと一緒に動きを考え、ケガしないように、パンチは本当に当たらないようにしなければならないが、本当のけんかに見えなければ意味がない。個人的に以前から習っていた護身術が少し役だったような気がする。

■何にでも挑戦

 −「ディストラクション−」は20代の代表作になる。

 柳楽 デビュー作の「誰も知らない」は何も分からずにやって結果として大きなものが残った。20代は「来るものは拒まず」で何にでも挑戦し、30代になって「好きなジャンル」が見つかるようになればいいと思っている。

 真利子 映画を見て「やべえな、これ」とざわついて、多くの人がこの映画の話をしてくれたらうれしい。「楽しければいい」という主人公の罪深い感触と向き合って、僕は泰良が「何なのか?」を考え続けることになるだろう。

 まりこ・てつや 1981年生まれ。東京都出身。法政大在学中に撮った8ミリ映画が国内外の映画祭で賞を獲得。東京芸大大学院の修了作品「イエロー・キッド」は劇場公開され新人賞多数。桃色クローバー出演の「NINIFUNI」を経て本作へ。
 やぎら・ゆうや 1990年生まれ。東京都出身。映画デビュー作「誰も知らない」(2004年)でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を史上最年少で受賞。間を置いて映画と舞台、テレビも含め個性派俳優として活躍中。