旅ばな

 外資系シティーホテル、大型リゾートホテルなどの総支配人を経て、現在、ホテル・旅館プロデューサーとしてホテルの再生・運営を主に活動する吉武英行が、旅のエピソードや宿での失敗談、宿の上手でお得な利用の仕方などを連載します。

美濃の国・養老、民話の里を訪ねて

2018年5月21日
癒やしを感じることができる「養老の滝」

 名神高速、岐阜羽島から15分ほどの道のり、民話の里「養老の滝」を訪ねた。この地に伝わる民話に心が癒やされ、出張の際に訪れてみた。民話の一部だけだが紹介してみよう。興味を覚えた方は一度、訪れてみてはいかがですか。

 昔、美濃の山里に大変親孝行の若者がいた。貧乏で毎日の食にも不自由する暮らしで、年老いた父親のために一生懸命働いていた。父親に長生きを念ずる心優しい性格でもあり、大の酒好きの父親に酒どころか米を買うお金さえ稼げず、お酒などめったに手に入らない。それでも息子は父親が酒を飲む幸せそうな様子を思い浮かべると、何とかしてあげたいと山奥に入り、まき取りに精を出す。

 そんなある日、若者は足を踏み外してあっという間に谷底に転がり落ちた。気を失ってしばらくすると喉の渇きで目を覚まし、「水が飲みたい」と体を起こしてあたりを見ると、岩陰から水の音が聞こえてきた。「ありがたい、水があるようだ」。若者が駆け寄ると、そこには見上げるばかりの滝がしぶきを上げて流れ落ちていた。

 若者は足元に泡立つ水をすくって口に含んだ。何とそれはただの水ではなく、これまで飲んだこともないようなかぐわしい酒であった。「ありがたいことだ。これを持ち帰れば父親がどんなに喜ぶ事か」。若者は腰に提げたヒョウタンに酒をくみ取ると急いで家に帰った。

 遅い帰りの息子の無事を心配していた父親に、ニコニコしながらヒョウタンの酒を差し出す。「なんだこれは。水か?これはうまい」。一口飲んだ父親は目をまるくした。「こんなかぐわしい酒は飲んだことがない、どこで手に入れたのか」。息子は山奥で起きた不思議な話を聞かせた。父親は「親孝行に神様がくれた褒美」と。この話は奈良の都の天皇の耳に伝わり、天皇は感心し、若者へたくさんの褒美と、なんと年号までも「養老」と改めたそうだ。

 この民話を聞いたというわけではないが、滝から流れる泡立つ水を口に含むと、ただの水であったが、十分に癒やしを感じた「養老の滝」の散策であった。

 (ホテル・旅館プロデューサー)