亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

北区天満の昔話

2016年6月4日

息子の命を救ったおにぎり

「狼はおにぎりがお好き?」イラスト((C)合間太郎)

 ちょっと珍しい天満の昔話。当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦の易者だが、その占い師はよく当たると評判であった。しかし、なぜかタダで占ってくれるという。当然、人気となり、連日大にぎわいとなった。

 そんな中に息子を連れた母親がいた。さっそく息子を見ると易者は真剣な顔になり「この子は今年の10月20日に死んでしまう」と言う。母親は驚いて、なんとか助かる方法はないかと聞くと、易者はこんな変わった方法を授ける。「その日、息子さんは外出することになるが、大量のおにぎりを背中にしょわせてあげなさい」と言うのだ。なんのことかわからないまま母親は、10月20日に備えることにした。

 はたしてその日は、お上の命により、枝などを払って森の中をきれいにするという役を、家から一人ずつ出す日に当たった。母親は易者の言ったとおりに、大量のおにぎりを背中にしょわせた。最初は何人かで作業をしていたが、やりだすと止まらない性格の息子は一生懸命、森の中で枝を払い、どんどん進んで行った。

 はっと気づくとまわりに誰もいない。えらい奥まで来てしまったな、と思ったとたん、目の前に狼(オオカミ)たちが現れた。あぶない、と思った息子は背中の重いおにぎりを放り投げて駆けだしたら、狼どもは、そのおにぎりをむしゃむしゃ食べ始め、それでようやく逃げおおせた。息子は一命をとりとめ、母親は易者に大いに感謝したということである。

 グリムの「赤ずきん」のように、外国ではほとんど悪役の狼だが、日本では道に迷った人を里まで送ってくれたり(これが本来の「送り狼」とも言われる)、神様として祀(まつ)られたり、どちらかと言えば良い印象の話も多い。まあ、外見は口も大きいし、熊も倒せる狼であるから、森の中で出合ったらそりゃ恐ろしいだろう。このような風化したような昔話にも、時々はスポットを当てていきたい。

(日本妖怪研究所所長)

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