岡力の「のぞき見雑記帳」

大坂とネズミのはなし

2017年5月29日

海を渡った日本の固有種

わが家のメスネズミ「リトコ」

 3年前から白と黒の柄をした「パンダマウス」なるネズミを飼育している。名前は「リトコ」。映画「スチュアート・リトル」に影響を受け、メスゆえ語尾を変換し命名した。古くから「ネズミ」は「寝ず身」と形容されている。これは寝る暇もなく働き、財を蓄える事に由来する。また白ネズミは大黒様に仕える神獣とされ縁起の良い動物としてあがめられてきた。

 江戸時代の大坂では、姿、模様が一風変わった種のネズミを「奇品」と呼び富裕層の間でブームが起こった。天満周辺には有名な養鼠家が営むペットショップのような店舗があったと文献でも残っている。冒頭で紹介したパンダマウスもかつてペットとして飼われていた事実がある。

 江戸中期に京都の出版社(銭屋長兵衛)から発売された飼育本「珍翫鼠育草(ちんがんそそでてぐさ)」には「豆斑」という名称で姿形同一のネズミが紹介されている。豆斑は愛玩動物として庶民の間で流行するもやがて日本国内では絶滅した。しかし、どういうわけか海外へ移り生存を続けた。

 1987年、デンマークでそれとよく似たネズミが発見され国立遺伝学研究所へ運び込まれる。そして長期にわたる検査の結果、豆斑の遺伝子が確認され奇跡の里帰りを果たした。また豆斑と西ヨーロッパ産で交配した種は、現在の医療研究分野で使用されている実験用マウスの起源と言われている。大昔、海を渡った日本のネズミが意外にも今日の医療進歩に貢献している。

 そんなパンダマウスだが、外来種に比べると小柄で温厚な性格の持ち主。朝から晩まで巣作りのためにセッセッと動き回っており、日本の勤勉さとデンマーク帰りの気品を兼ね備えている。めでたし、めでたしと言いたいところだが、日本人は固有種を一度絶滅させた過去を忘れてはいけない。(コラムニスト)