淀まず続ける 大阪の現場から(中) クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック

信念は「顔の見える関係」

 20周年を迎えた「クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック」(堂野智史所長・チーフコーディネーター)のミッションは「クリエイターが活動しやすい事業環境を整備し、クリエイターの自立・成長を促す」ことだ。重視しているのは「顔の見える関係づくり」で、クリエイター同士、クリエイターと企業・団体が出会う機会をさまざまな形で提供している。過度な干渉はせず、応援・場づくりに徹する姿勢と、現役のクリエイター自身がコーディネーターになる方針で実績を上げてきた。

 大阪市中央区の大阪産業創造館17階。来館者たちはパワーポイントによるクリエイターのプレゼンテーションを熱心に聞いている。企業と多様な能力を持つクリエイターとのビジネスマッチングの場「“かかりつけ”クリエイターをみつけよう」の様子だ。メビックの本領発揮はプレゼン後の交流会での「顔の見える関係づくり」になる。

イノベーティブな関係性

 活動のベースにあるのは「ニーズとシーズのマッチング」以上の関係づくりを目指す堂野所長の信念。ニーズとシーズが合わなくても信頼関係が築ければ、第三者を含めニーズに応えようという動きが生まれ、さらに「新たな知見や行動につながる『イノベーティブな関係性』に発展する可能性がある」とし、信念を実績につなげている。

 メールマガジンの登録者数は2003年の2763人から22年の1万9300人に、メビックがきっかけで実現したコラボレーション事例は13年の312件から22年の415件に増加している。メビックの設置者は大阪市経済戦略局で、運営は公益財団法人大阪産業局。インキュベーション施設としての色合いが濃かったメビックだったが、施設移転やコロナ禍など環境変化に対応しながら現在の形にたどり着いた。

一つの文化

 05年から約2年入居し、現在はデザイン会社「ランデザイン」(枚方市)を経営する浪本浩一アートディレクターは「グラフィックならグラフィック、プロダクトならプロダクトという集まりはあるが、これだけ幅広いクリエイターのつながりは知らない。一つの文化をつくった」と指摘。

 08年から1年8カ月入居していた企業広報支援の「PRリンク」(大阪市)。神崎英徳社長は「自分の本当の思いを伝えることを学んだ。クリエイターとのつながりが財産で、自社だけでできない仕事も受けられる」と話し、ランデザイン社とのコラボ事業を実現している。

記者の手帳 周りに「刺激」思い浸透

 「イベントを手伝ったりして今でもつながっており、刺激になる」「つながりが財産。負けていられないと刺激を受ける」-。メビックで関係を築いた人たちを取材して、共通して出てきた言葉は「刺激」だった。堂野所長のいう「イノベーティブな関係性」による産物だろう。20年という時代の変化の中で、メビックの変わらない考え方の一つが「『人』起点で物事を考える」ことが浸透している。

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