高級店たる条件とは

吉武英行 五感の旅

 先日、友人と大阪のイタリア料理店に行った。ミラノに本店があり、ミシュランの星を持つというこのレストランでは、エントランスを入ると数人のイタリア人らしきスタッフが笑顔で「ブオナセーラーイラッシャイマセ」。一生懸命、日本語を使う彼らには好感が持てた。

 テーブルにつくと、飲み物メニューを持ってきたのは、にこりともしない澄まし顔の日本人スタッフ。注文とともに、食べ物のメニューを頼むと返事もしなかった。聞こえなかったのかと思いきや、その後別のスタッフがメニューを持ってきたところをみると聞こえていたようだ。われわれが食事メニューを見ながら相談していると、飲み物を持ってきたのは先の澄まし顔ウエーター。彼はテーブルにグラスを置くと、立ち去り際に「先に乾杯してください!」。

 ええっ? 耳を疑った。冗談じゃない! どうしてそんなことをスタッフに命令されるのだろう。いつ飲むかはこちらの自由だ。「帰る!」と私は席を立った。そこに飛んできた外国人スタッフは、そのドリンクを無料にするからとどまってほしいとのこと。しかし、こちらはここで食事を楽しめる気分ではない。「また来るから」と心にもないことを言いながら店を出た。この店ではマネジャークラスのイタリア人が日本語や日本の習慣がわからないのをいいことに、日本人スタッフが勝手なことをしているようだ。直輸入スタッフが逆効果なのかも。

 ホテルも含めて高級とされる場所で自分がお客より上と勘違いし、お客を見下ろしたように偉そうな態度をとるスタッフを時折見かける。高級店(ホテル)の条件は、お客も含めて高級であること。どんなお客に対しても礼儀正しく、温かい態度のスタッフを見た時、高級店を感じるのだ。

 (ホテル・旅館プロデューサー)

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