女将の総合力に脱帽

吉武英行 五感の旅

 “旅館の女将(おかみ)さん”という言葉のイメージにはいろいろなものが含まれる。全てを分かってくれている人生のある種の達人、ほのかな色気、母親のような包容力、そしてバリバリ働くキャリアウーマンの迫力。もはや忍従でのれんのために生きる細腕繁盛記ではないと思う。

 それでもテレビのバラエティー番組に登場する旅館の女将は、女将の「女であること」を強調するものばかりというのは、業界の内部を知る者とすれば、少しこそばゆいところがある。というより、ズレ過ぎだと思うことがしきりだ。

 実際、筆者が接触してきた女将さんの大半が「女性であること」の魅力は当然だが、それ以上に「人間であること」の力にみなぎった人であった。旅館は色気だけでできるビジネスではない。女性のトップが女将さん、ママと呼ばれる職業は、思い浮かぶのは旅館、料亭、ナイトクラブ、相撲部屋だと思う。クラブママは顧客サービスの頂点を示すことと、商品(ホステスさん)の管理、料亭は(離れず遠からずの)顧客サービス、相撲部屋はお弟子さんの生活管理という側面が強いが、旅館の女将さんはそれこそ、集客から商品管理(設備、料理の点検)、そしてホスピタリティ・プロバイダー(サービスの手本と従業員の教育訓練)まで、とにかく総合力が必要だ。愛想の良さだけでは務まらない部分がある。

 というのが筆者の女将さん観だが、中間管理職が悩む問題の大半は、実は多くの経営指南書に載っているようなダイナミックな経営課題ではない。例えば、従業員がかかってしまううつ病の問題やセクハラ、あるいは営業上で発生する人間関係のややこしさといった問題こそ、なかなか回答が得られないものだ。現場で発生するデリケートな問題の重要性を理解し、解決していく女将の力は計り知れない努力の結果である。(ホテル・旅館プロデューサー)

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