つぼみが花開くような宿づくりを

吉武英行 五感の旅

 先日、久しぶりに地方のホテルのサービス研修に参加した時の出来事である。会場に飾る花をセッティングしていた花屋さんらしき青年と話をする機会があり、興味深い話に時間を忘れ話し込んでしまった。

 花屋さんで働く彼はこれから独立して花屋さんを開店するのだと言う。「どんな花屋さんを目指すの?」と聞くと「つぼみがきちんと花開く。そういう花を大切に売っていきたいんですよ」という答え。えっ? と思った。つぼみがきちんと花を咲かせるのは当たり前じゃないかと。

 今の日本の花屋さんでは、バラでもチューリップでも切り花の花束のつぼみは咲かないことの方が多いのだそうだ。「日本の花束はささげる文化で、自分のために買う文化になっていない。だから人にあげたその瞬間だけ、きれいで豪華であればいいということだから、花の生産地で咲かせて、輸送車の積載効果重視だから、冷蔵して寝かせて運ぶ。寝かせてしまうとやっぱり花の生命力、なくなるんですよね」と話してくれた。「だからこそ、うちでは新鮮で生命力のある花を売りたいし、お客さんにも数日後にきちんと花が咲くつぼみを花束に入れたい。一時の華やかさよりも、じわっとくる美しさを大事にしたい」。久しぶりにすがすがしい会話を体感した。

 旅館業も「思い出」を持って帰ってもらうビジネスだが、帰って1週間、10日たってから、思い出の花が開くような宿が最高だ。宿に到着した時、圧倒的な豪華さも大事かなとも思うが、本当の美しさはつぼみが花開くとき。そういう宿をどうつくるかは難しい問題だが、少なくともそういう心意気は持ちたいものだ。

 その彼いわく「表彰式などじっくり見てください。花をきちんと直立させず斜めに抱えているのは日本人だけです。花はまっすぐ持つもの。やはり花は西欧の文化。日本はまだまだかな」。

 (ホテル・旅館プロデューサー)

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