鳥取県、三徳山投入堂

吉武英行 五感の旅

 鳥取に取材に行った折、三朝温泉の近くにある三徳山三佛寺に案内してもらった。断崖絶壁に張り出すように修験のためのお堂が築かれているのが有名なお寺だ。

 紀元706年、役の小角という行者がこの地に修行の場を作ろうと決意したのだが、その予定地がまさに断崖絶壁。とてもお堂など建てられない。やむなく、平らな場所にお堂を建てたのだが、役の小角がお経を唱えると、巨大な法力が生まれて、彼はお堂を丸ごとつかみあげ放り投げたところ、絶壁にある洞穴にピッタリ収まってしまったという。

 それがこの「投入堂」の由来。写真で見た方も多いと思う。どうやってこんな足場のないところに、建築できたのだろうと思わせる謎の建物である。ついでにご住職とも話ができたのだが、軽い気持ちで登って、滑落事故が起きたことが何度かあったそうである。投入堂までの山登りは途中、鎖にしがみついて上がらなければいけない急斜面がいくつかあるという。「危険なことだが、やはり本物を伝え続けたいのだと。修験道の厳しさを追体験してもらう。まがい物ではない、本物の体験を」と。

 これからの「旅」に期待されるのは、本物「感」ではなく、そのままの本物だろう。本堂まで上がるのにも危険な斜面を上がらねばならず、それでもはるか頭上に投入堂の威容が垣間見えると、もうそばに行って建築物のディテールを肉眼に収めたくなってしまう。これが本物の持つ力というべきものだろう。こういう本物のスリルを求める若者が殺到するのではないかと思う。

 これからの「旅」のキーワードは「本物感さようなら、本物だけにこんにちは」だ。

 (ホテル・旅館プロデューサー)

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