金井啓子の現代進行形

現実の報道現場をリアルに再現

2019年7月4日

映画『新聞記者』が話題に

 映画『新聞記者』を見た。現政権批判の色合いが強いと聞いていたので、小さい映画館でなければ見られないのかと思っていたが、大きなシネコンで見られた。ただ、シネコンの中では小さめの部屋だったためにほぼ満員。話題になり過ぎて、政府に忖度(そんたく)して上映を遠慮する映画館が出ないことを祈りたい。

 さて、私がこの映画をよかったと思う最大の理由は、主人公の女性記者をステレオタイプに当てはめず、多くの人々の頭の中で思い描かれがちな「よくいるタイプの女性記者」にしなかったことだ。

 テレビドラマや映画で見かける女性記者たちは、パンツスーツやタイトスカートをパリッと着こなしていたり、ハイヒールのかかとをコツコツと鳴らしていたり、美人で取材先にかわいがられていたり、取材に応じたくない相手にきつい口調で迫ったり、男性に伍(ご)して働くためにまなじりを決してピリピリした雰囲気を出していたり、何となくエラそうだったり、静まり返った記者会見場で叫んだり…といった「特徴」を備えている。

 だが、『新聞記者』に出てくる吉岡エリカ記者は、なんとも地味でモッサリしているのだ。こんなことを言うと演じていた女優シム・ウンギョンさんに失礼だろうか。いやむしろ、そういう雰囲気を出せた彼女の演技がすばらしいと言えるのかもしれない。洋服は特にしゃれていないし、歩きやすそうな太いヒールのブーツを履き、髪形もメークも目立たず、重大なことが起きても大きな声をあげたりすぐ走りだしたりしない。とにかく静かなのだ。ただし、取材先に聞くべきことは聞く。低い声で落ち着いた口調で。取材内容にかける思いの熱さは人一倍あっても、それを声高に叫ばない。また、いわゆる「帰国子女」でもある彼女には、そこからイメージされがちな派手さもない。

 私自身も「元女性記者」であり、その時代も教員になってからも多くの女性記者に出会ってきたが、今回描かれていた記者像に近い人たちが本当に多い。

 「らしくない」が現実味のある記者像に、大学でジャーナリズムを教えている私がこだわるのは、学生たちの間でとにかく記者職が不人気だからだ。学生が嫌う理由は多々あるが、「嫌がる相手にマイクを突きつけて囲み、無理やりしゃべらせる」という高圧的で強引なイメージを嫌う学生が非常に多い。そういうメディアスクラムは改めるべきである。だが、あれは記者生活のごく一部を切り取ったものに過ぎない。ちまたに流布しているこうした記者像を少しでも変えるには、「吉岡記者」の果たす役割は大きい。

 そういった意味で、映画館に多かった中高年層だけでなく若者にも見てほしい映画である。ただ、そのためには『新聞記者』という硬いタイトルはなんとかならなかったのか。若者にはタイトルからイメージされるものを超えて、まずは見てほしい。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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