澪標 ―みおつくし―

男性に「今日はお休みですか?」

多賀 太
一般社団法人ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン共同代表
関西大学教授 
2019年11月12日

 先日、失業経験のある男性の友人から、当時は理髪店に行くのに平日の昼間を避けていたという話を聞きました。理容師から「今日はお休みですか?」と尋ねられるのが苦痛だったというのです。

 私も、子どもが小さかった頃に、こんな経験がありました。平日の昼間に地域の会合に出席したところ、参加者は女性と高齢の男性ばかり。見知らぬ人から最初に掛けられた言葉が「今日はお休みですか?」。仕事と育児に追われて忙しいなか、必死で時間をやりくりして参加したのに、まるで「あなた暇そうですね」と言われたように感じて、内心イラッとしました。

 男性に「今日はお休みですか?」と声を掛ける人たちのほとんどは、本当に仕事が休みなのかどうなのか知りたいわけではなく、会話のきっかけとして「今日はいいお天気ですね」と同じくらいのつもりで話しかけているのでしょう。しかし、もし相手が見知らぬ中年の女性だったとしたら、同じ言葉をかけるでしょうか。

 この何気ない言葉の陰には、成人男性は皆、平日の昼間は職場で働いているはずだというアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が潜んでいます。

 こうした世間の思い込みが、定職に就いていない男性や「ひきこもり」とされる中年男性たちに生きづらさをもたらし、彼らを追い詰めていることは想像に難くありません。失業した男性が、近所の目を気にして、毎朝スーツを着て外出し、時間をつぶして夕方帰ってくるというエピソードは、このことを如実に物語っています。

 それだけではありません。こうした世間の思い込みが、めぐりめぐって女性たちにも生きづらさを生じさせているように思います。

 成人女性が平日の昼間に家にいたり近所を出歩いたりしても不審がられる心配がないのは、世間の常識が、家庭責任や地域活動を担うのは女性であるとみなしているからでしょう。しかし、こうした常識が、職業社会での女性の活躍にとって大きな足かせとなっています。

 2015年に「女性活躍推進法」が成立し、国を挙げて女性登用のためのさまざまな取り組みが行われていますが、家庭や地域の責任の大半を女性が負わねばならない状況が変わらない限り、女性はそうした機会を利用することすらできません。

 女性が活躍の幅を広げるためには、男性が家庭責任をより積極的に果たし、女性の家庭責任が軽減されることが不可欠です。そのためには、男性自身の努力や、男性の柔軟な働き方を可能にする働き方改革が重要なのはもちろんですが、同時に、男性が平日に安心して育児や地域活動に参加できるよう、世間の常識が変わることも必要でしょう。

 平日の昼間に男性が理容室に行ったり地域活動に参加したりしても「今日はお休みですか?」という質問におびえたりイラついたりしなくてすむ社会。そうした社会の実現は、男性の多様なライフスタイルを可能にするだけでなく、女性が仕事で生き生きと輝くためにも大切な第一歩なのではないでしょうか。

 (大阪府吹田市、たが・ふとし)



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