澪標 ―みおつくし―

〈取るだけ育休〉から〈実のある育休〉へ

多賀 太
一般社団法人ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン共同代表/関西大学教授
2020年2月17日

 先日、30歳代の会社員男性と話していたら、近々お子さんが生まれるというので、育児休業は取らないのか尋ねてみました。すると、「本当は取りたいけどたぶん取らない」とのこと。収入が減るのを心配しているのか、あるいは職場の上司に理解がないのかと思いきや、なんと妻から「あなたが家にいるとかえって私の仕事が増える。〈取るだけ育休〉なら取らないで」と言われたのだそうです。

 実は、彼の妻のような考えの女性が決して少なくないことが、西日本新聞が行った読者アンケートからもうかがえます(2020年1月25日朝刊)。30歳代と40歳代の女性では「男性に育児休業を取得してほしくない」という人の割合がほぼ4人に1人。経済的な理由の他に「家にいても子育ての戦力になるか期待できない」「赤ちゃんと旦那の世話で倍に忙しくなるだけ」などが理由として挙げられているのです。

 確かに、最近の若い夫たちの間では、育児への参加意識が強く、妻の妊娠中から育児について学んでいる人が増えています。しかし、たとえ妻がいなくても家事も乳児の世話もすべて一人でこなせると胸を張って言える人となると、いまだ少数派。多くは、妻の「お膳立て」のもとで育児の一部を手伝っているのが実情のようです。

 妻から「あなたが家にいると私の仕事が増える」と言われないためにも、(特にこれから父親になる)男性たちは、育児について学ぶのはもちろん、自分の身の回りのことは自分で行い、育児中の妻の家事負担を減らせるよう、家事全般のスキルを磨いておくことも重要でしょう。

 他方で、男性の育休が〈取るだけ育休〉になりがちな原因が、常に男性の側だけにあるとは限りません。家族心理学に「マターナル・ゲートキーピング」という用語があります。少なくとも一部の母親たちが、いわば家庭の「門番」として、どの程度父親を家事・育児に参加させるか無意識のうちにコントロールしているというのです。

 夫にもっと家事・育児をやってほしいと願っていても、それらの差配はあくまで自分がしたいという女性は少なくありません。また、夫の家事・育児スキルがそこまで低くなくても、やり方やペースが自分と違うとイライラしてしまい、結局自分でやってしまう。そうして、夫が自立した家事・育児の担い手になる機会をつぶしてしまい、ますますつらくなっている女性もいるようです。

 夫の〈取るだけ育休〉はごめん被りたいという女性たちの声はごもっとも。しかしそれが、育休取得や育児参加への男性の意欲を失わせたり、男性の育休取得に消極的な職場の口実に使われたりするならとても残念です。

 ちょうど小泉進次郎環境大臣の育休取得が話題となり、男性の育休取得への機運が高まりつつあります。「〈取るだけ育休〉なら取らない方が」という後ろ向きの発想ではなく、「どうせ取るなら夫婦とも〈実のある育休〉にするために何をすべきか」という前向きな発想で、社会が一丸となって男性の育休取得を後押ししたいものです。

 (大阪府吹田市、たが・ふとし)



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