来阪catch

装丁家・菊地信義の仕事

ドキュメンタリー映画 「つつんで、ひらいて」
監督 広瀬 奈々子
2020年1月18日

本質を表現する職人技

「本と読者をつなぐ仕事で、その職人技の裏側がのぞけた」と話す広瀬奈々子監督=大阪・十三の第七藝術劇場
仕事場の菊地信義(C)2019「つつんで、ひらいて」製作委員会

 俵万智の「サラダ記念日」など1万5千冊の本のデザインをしている装丁家・菊地信義(77)の仕事を追いかけたドキュメンタリー映画「つつんで、ひらいて」(マジックアワー配給)が大阪・十三の第七藝術劇場で上映されている。その仕事ぶりを「本の魅力と本質を表現する職人技」という広瀬奈々子監督(32)に撮影のエピソードなどを聞いた。

 広瀬監督といえば、是枝裕和監督、西川美和監督が率いる「分福」に所属する若手で、昨年、柳楽優弥と小林薫の主演で撮った劇映画「夜明け」でデビュー。「父親がいない青年と、息子がいない初老男の触れ合い」を描いたヒューマンな作品だった。「それを撮る前に撮影に入っていたのが『つつんで、ひらいて』で、結局、デビューが前後して、ドキュメンタリーが公開2本目になった」

 2015年から約3年かけて菊地をカメラで追いかけた。「70歳で亡くなった私の父親が装丁家だったこともあってその仕事に興味は持っていたが、生前の父とはそれについて話したことは少なく、40年以上それに関わり、有名な作家の本を数多く手がけておられる菊地さんを知り、話を聞きたいと思ったのが最初だった」

 鎌倉に住み、仕事場は東京の銀座にある。建築家のような図面を描くデスクのある部屋で、菊地が1枚の紙をくしゃくしゃに包んで、またそれを開いているところから映画は始まる。「ある本のタイトルが活字で書かれた紙をくしゃくしゃにすることで、黒字の部分がかすれてくる。そのかすれ具合が、その本のタイトルにふさわしく、その本の本質を表現していると菊地さんはいう。映画のタイトルはそこからきている」

 カメラを向けられることを初めはためらったというが、「『いいことを思いついた』と出演をOKしてくださった。まな板の鯉(こい)ならぬ、鯛(たい)だとおっしゃった。その仕事ぶりは芸術家というより職人的で、いろんな条件の中で、一番いい方法を探ってデザインを具現化していく。作品の中身を表紙に盛る作業。映画なら、脚本を映像にしていく監督の作業に似ているような気もする」

 現在の装丁の仕事はパソコン作業が多いが、菊地は紙を肌で感じながら手作業で行う。その職人技は、失われつつあるものなのかもしれない。菊地は映画を見て「監督に装丁された」と話したそうだ。



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