淀まず続ける 大阪の現場から(下) うずみ火 

泣いている人に寄り添う

 反戦・反差別を訴え続ける月刊のミニコミ紙「新聞うずみ火」。ジャーナリストの黒田清さんの遺志を継ぐ矢野宏さんと栗原佳子さんが仲間たちとともに18年間、途切れることなく毎月発行し続けている。最近の2号のトップ記事は「改正入管法成立 ミャンマー難民の思い 入管に長期収容されて」「関東大震災虐殺 100年追悼 官製ヘイト認めぬ政府」。黒田さんの「誰が泣いているのかを考えろ。泣いている人に寄り添え」という教えが息づいた紙面だ。

紙の新聞

 創刊は2005年10月。郵政選挙で自民党が圧勝した年で、「憲法が悪いように変えられるのではないか、その時に何ができるのか」と考え「小さいけれど新聞を出していこう」と決断した。

 紙の新聞にこだわったのは「戦後70年以上続いている平和な世の中を受け継いで消すことなく、次の世代にバトンタッチしたい。そのためにはITの時代に取り残されている戦争体験者の声が絶対に必要」との思いからだ。うずみ火の命名は栗原さん。灰の中に埋めた炭火のことで「消えることなく翌朝新たな火種になる」様子に「不屈」「抵抗」の精神を重ねた。

専門分野と読者との距離

 強みは専門分野を持つ執筆陣。矢野さんは「大阪大空襲」、栗原さんは「沖縄」の取材を長く続けており、共通の課題は当事者の高齢化。「語り部から語り継ぐことがわれわれの役割」と話す矢野さんは、体験者の証言をDVDにまとめることにも注力している。他のメンバーも「紛争地帯」「原発」など継続するテーマがあった上で「戦争はあかん。もっと良い社会を次世代に渡したい」という共通の強い意志がある。

 読者との距離の近さも特徴だ。月1回の新聞発送日には10人ほどの読者が手伝いにきてくれるという。お茶を飲んで話をする茶話会やお酒を酌み交わして議論する酒話会、識者を招いて講演を開き、読者といっしょに考える「うずみ火講座」など、読者との関係を深める取り組みがある。

 21年、「新聞うずみ火」はジャーナリスト、むのたけじさんの精神を受け継ぐための「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」の第3回大賞を受賞。選考理由に「地域的土着性と政治的全国性を持ち、2人の記者の専門的取材能力が卓越していること」が挙げられた。B5判32ページのミニコミ紙には、積み重ねた取材による知見と、読者とともに権力と対峙する覚悟がつまっている。

記者の手帳 全国読者の思いと共に

 むのたけじさんと黒田清さんという筆者が尊敬する2人のジャーナリストの遺志を引き継ぐ「新聞うずみ火」。もっと早く学べばよかったと思うのは読者との関係性だ。北海道から沖縄まで全国の約2千人の読者はただの読者ではない。「泣いている人の横に立つ」方針が明確で、記者からは読者が見えており、読者からも記者が見えている。小さくたって全国を土俵に生き残る新聞の形だ。

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