トップ企画コラム連載・特集    

  トップ
 


   
野分 大阪発・論点 大阪から野分(台風)を起こします
2018/11/09

安田純平さんの帰国に思う 記者は真実に迫るためあらゆる手を尽くす

 安田純平さんが帰ってきました。記者会見で謝罪とお礼を述べていました。でも、そもそも謝罪って必要でしょうか? 何に対する謝罪でしょう?

◇   ◇

 人さまに迷惑をかけてはいけません論。まことにその通りで日本人の規範意識に刷り込まれています。でも安田さんは誰に迷惑をかけたのでしょう? 政府に迷惑をかけた? 国民を危機から守るのは政府の責務で、そのために国内なら警察、海外なら外務省や在外公館があります。我々はそのために税金を払い政府機関を維持しています。

 国内で犯罪被害の危機にさらされた時、警察が「自己責任だ」と言って放置したら非難囂々(ごうごう)でしょう。海外でも同じことです。外務省や在外公館が危機への対応に追われたからと言って、被害者が責められるいわれはありません。

 「いや、あれは自ら望んで危険地帯に行って起きたことだから自己責任だ」ですって? よく言われる自己責任論。でもこれは例えば性犯罪の被害者に「襲われるようなところに行ったから悪い」「犯罪者を刺激するような格好をしていたから悪い」と言うようなものではないでしょうか…。実際、言う人がいますからねえ。

 私は思うのです。人は誰しも自分の行動を自ら決める権利がある。その結果について自分で引き受ける責任もある。でもだからといって、危機に陥っても救う必要がないとは思いません。そうでないと、少しでも危険があることは怖くて何もできない、ということになりかねません。安田さんを非難するのは、自分にはできないことをする勇気がある人を非難していることになりませんか?

 安田さんはシリアの危険地帯に行った。自分の判断で行った。それは、そこで何が起きているかを見届け、皆に伝えるためでした。その目的も行動も立派だと、私は思います。真の記者の仕事です。そして安田さんは記者の仕事を貫いた結果、窮地に立ちました。これは、私たちの代わりに危険地帯で真実を見ようとして起きたことではないでしょうか?

 14年前、イラクで3人の日本人が人質に捕らわれた時、自己責任だと非難する声が国内であがりました。ですがあの時、米国のパウエル国務長官はこう語りました。

 「誰も危険を冒さなければ私たちは前進しない。よりよい目的のため自ら危険を冒した日本人がいたことを私はうれしく思う。彼らや、危険を承知でイラクに派遣された自衛官がいることを、日本の人々は誇りに思うべきだ」

 パウエル国務長官は、人質になった3人と、派遣された自衛官(英語ではsoldier)を横並びにして褒めたたえたのです。なのに…私は日本人として恥ずかしい…。

 私は安田さんと一面識もありません。でも同じ記者の一人として、彼の行動に賛辞を贈ります。

 安田さん、あなたは何も謝罪する必要はない。誰にもおわびする必要はありません。むしろ感謝と称賛の言葉を贈られるべきです。日本人記者として危険地帯に自ら行ったあなたは、日本の誇りです。

◇   ◇

 記者は真実に迫るためありとあらゆる手を尽くします。時には危険を承知で足を踏み入れます。もちろんあらゆる安全策を講じるべきですが、それでも危機に陥ってしまうことはあるでしょう。その時、政府は救出に全力を尽くしてほしいし、人々は共感を寄せてほしいと願います。

 人は誰しも大なり小なり他人に迷惑をかけて生きているものですから。(大阪日日新聞 論説委員・記者 相沢冬樹)

  トップ
本ページ内に掲載の記事・写真など一切の無断転載を禁じます。
すべての記事・写真の著作権は(株)ザ・プレス大阪に帰属します。