ボサノバ歌手 結美のボア・ヴィアージェン

 関西を拠点に活躍するボサノバ歌手の結美さん(27)。ライブ活動では清涼感ある歌声で多くのファンを引き付ける。昨年は発祥の地ブラジルで演奏を披露し、ボサノバ音楽の奥深さも体感した。「悲しみを包み込むような明るさが好き」と語る結美さん。ボサノバへの思いを本紙に寄稿した。5回連載。

ブラジル紀行(下)

2014年11月6日

二人の歌姫に心震え

リオ・デ・ジャネイロのライブハウス入り口。「BOSSA NOVA」(ボサノバ)の「A」が消えて「BOSS」に。それでも気にしないのが開放的なブラジルらしい

 客電が落ち、暗闇の中、ステージが浮き上がってくる。会場は揺れんばかりの歓声に包まれる。その中を彼女の声は、強い意志を持ち響き渡った。物語を紡ぎ出すように歌は生まれ、それが持つ色、かたち、そして香りまで感じられる気がしてくる。

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 サルヴァドールからバスに揺られて14時間、ブラジルの水の都と呼ばれるヘシーフェへ。気温はさらに上がり、ムッとした熱気が肌にまとわりついてくるが、海は美しい緑に輝いている。

 才色兼備の歌姫、マリーザ・モンチのライブへと向かった夜は、彼女の心の中の宇宙にトリップしたような時間を過ごした。そこはあたたかく、誰しもが音楽の中に魔法と、紛れもない愛を感じる場所。ステージのバックにポルトガル語で、「誰かを愛することは、それと同じく他の誰かも愛すること」と書かれているのがとても印象的だった。

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 そしてブラジルを発つ前日に、もう一人の歌姫をリオ・デ・ジャネイロで見ることができた。

 リオでは、音楽に溢(あふ)れた眠らない街、ラパという所に1カ月間アパートを借りていた。毎夜いくつものライブハウスで、刺激的な音が鳴り響き、たくさんの素晴らしい演奏が聴けた。

 しかしその中で、一番鮮烈な音楽を聴かせてくれたのが女王ガル・コスタ。真っ黒な髪と同じ色のドレスに身を包み、颯爽(さっそう)とマイクの前に立つ。その姿に彼女がどのように長い年月を、歌と向かい合ってきたのかが感じられる。

 のびやかな声が会場を包み、歌の世界へと一気に連れ去られる。何かを見据えているような瞳。立ち止まらず、新しいものを創(つく)り出していくこと。彼女はまさに今それを体現してくれているのだと思った。

 たくさんの音楽との出会いがあったブラジルでの70日。音の余韻を抱いたまま、真夏のリオ・デ・ジャネイロを発(た)ったのだった。

(ボサノバ歌手) (毎月1回掲載)
 ◆結美(ゆうみ) 本名・山本結美。1987年、兵庫県生まれ。16歳でボサノバ音楽と出会い、関西を拠点に活動する。毎週火曜日は大阪市中央区東心斎橋1丁目のジャズバー「コモド」でギターを弾き、歌声を披露する。祖母は鳥取県琴浦町出身。連載タイトルの『ボア・ヴィアージェン』はポルトガル語で「良い旅を」の意味。

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