ボサノバ歌手 結美のボア・ヴィアージェン

 関西を拠点に活躍するボサノバ歌手の結美さん(27)。ライブ活動では清涼感ある歌声で多くのファンを引き付ける。昨年は発祥の地ブラジルで演奏を披露し、ボサノバ音楽の奥深さも体感した。「悲しみを包み込むような明るさが好き」と語る結美さん。ボサノバへの思いを本紙に寄稿した。5回連載。

旅は終わらない

2015年1月8日

そして「夢」の扉へ

私を迎えてくれたリオ・デ・ジャネイロの海岸。一生忘れることはない

 ブラジルのリオ・デ・ジャネイロから大阪へと帰ってきたのはもう1年前だ。

 リオを発つ当日、「イパネマの娘」で有名な、イパネマ海岸へと出かけた。70日間の旅もきょうで終わりなのだけど、実感はまだない。

 街には市(いち)が出ており、旅の間に見かけた各地のお土産などが並べられていて、それぞれの場所で過ごした日々がよみがえってくる。多様性に溢(あふ)れた自然の色や、太陽の日差しのような人々の笑顔。繊細なのに力強くて、その中にいると繕うことを知らない子どもの心に戻ってしまう。

     ♪

 浜辺へ向かうと色とりどりのパラソルが光を受けて輝いている。その向こうにはいくつものレースのような波が生まれては消えていき、その間をサーファー達が鮮やかに滑り抜けていく。ビーチサンダルの中に入り込んでくる砂が熱い。汗をかいたのでマンゴージュースを買って飲みながら、しばらく空と海を眺めていた。

 そろそろアパートへ戻って荷造りをしなくちゃ、と立ち上がった時、突然街の景色、匂い、音の輪郭がくっきりと浮き上がってきた。今、この目に映っているのは私がずっと思い描いていた場所なのだ。スピーカーの前にかじりついて、ポルトガル語にカタカナをふっている16歳の自分が見える気がした。

     ♪

 ブラジルを旅している間、同時に自分の内側へも旅していた。いつの間にか忘れてしまっていた気持ち、向き合うことを避けていた思い、そして音楽を通して出会ってきた人たち。どれが欠けても私はブラジルには来ていなかったと思う。どんなところに居ても、否(いや)応なしにその旅は続いていく。続いていくことのなんと愛(いと)おしいことか。ビーチサンダルで踏みしめる一歩、一歩はこれからどこへ繋(つな)がっていくのだろう。

 そして1年後の今、ブラジル、鳥取への旅を連載させていただく事ができました。今回で最終回ですが最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 Boa Viagem!

 (ボサノバ歌手)

(おわり)
 ◆結美(ゆうみ) 本名・山本結美。1987年、兵庫県生まれ。16歳でボサノバ音楽と出会い、関西を拠点に活動する。毎週火曜日は大阪市中央区東心斎橋1丁目のジャズバー「コモド」でギターを弾き、歌声を披露する。祖母は鳥取県琴浦町出身。連載タイトルの『ボア・ヴィアージェン』はポルトガル語で「良い旅を」の意味。

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