連載・特集

違いを力に -発達障害をめぐる現場から

 歴史に名を残す偉人と落ちこぼれ扱いされる人たち−。世間の評価は対極だが、そのどちらにも深くかかわるのが発達障害者だ。周りの環境によって発揮する力は大きく左右され、その環境づくりは、近年の社会問題を克服する指針にもなりうる。発達障害者支援法が施行されて5年が経過した今、発達障害を通して、人と人とのかかわり方や社会のあり方を見つめ直す。

第1部 本人と家族の挑戦(3)

2010年9月24日

仲間から「救いの手」 二次障害の克服に助言

大阪・北新地の事務所で、メンバーらと社会人ピアワークサポート事業に取り組む広野代表

 「どうすれば『ホウレンソウ(報告、連絡、相談)』ができるのか?」

 「やるべきことと優先順位を書いたリストを作る」「どの時点で報告したらいいかを最初に確認しておく」−。今年8月、大阪・北新地のビルの一室で、発達障害のある社会人らが、「上司対策」をテーマに実体験に基づいて意見を出し合った。

 働いている発達障害者らが支援者となり、同様の障害などで生きづらさがある若者の就労支援をする大阪府の委託事業「社会人ピアワークサポート(ピアサポ)事業」の一環。

 主催するNPO法人「発達障害をもつ大人の会」(大阪市福島区)の広野ゆい代表(38)は、発達障害者の特性として「情報の優先順位を付けにくかったり、指示の意図を理解できなかったりする場合がある」と指摘する。「ただ、工夫や練習で乗り越えられることも少なくなく、あきらめない姿勢が大切」

■医療体制が不十分

 広野代表が注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断を受けたのは約10年前。そのころは自分に「絶望」し、うつ病を発症していた。

 小学校のころから忘れ物が多く、人の話を聞いていないと怒られた。大学で一人暮らしを始めると、部屋の中を片付けられず、金銭や食事の管理もできない。日に日にうつ症状は悪化した。

 発達障害への対応をより難しくするのが、この「二次障害」と広野代表。「回復に時間がかかる上、発達障害の特性を理解していなければ根本的な解決にならない」

 発達障害のある成人が十分な対応を受けられるのは大阪府内で5、6施設程度という、医療体制の不十分さも指摘する。「その中で大きな支えになるのが仲間との出会い」だ。

■自分の取扱説明書

 ADHDでうつ病などを患ってきた同法人会員の伊藤真理さん(34)=仮名=は「仲間が自分の取扱説明書を書いてくれる感じ」と笑顔を見せる。

 対人関係の仕事が苦手で、指示を受けて行うパソコン業務に適性がある点などを整理できた。「これまで自信がないという思いが強く、得意な面があっても目に入らなかった。それを仲間の指摘で気付かせてもらった」

 広野代表は「当事者同士だからこそ特性を理解し合い、適切な助言をできることがある」と力を込める。自身も北海道のADHDのある大人の会を訪ね、「救われた」と話す。同法人設立は「今まで助けてくれた人への恩返しでもある」。

■支援者も成長

 ピアサポ事業の狙いもそこだ。サポーターを募り、テーマや職種に応じた成功体験などの情報を共有。支援に役立てていく。

 支援者側の成長につながるのも特徴。システムエンジニアの山本純一郎さん(37)はADHDで、人を管理する業務は苦手だが、独自色を出せる仕事は得意という。今回、ホームページの運営などに尽力し、「自分にとってプラス1になる仕事をどんどんやっていく」と意欲的だ。

 ただ、就労環境をめぐっては、当事者だけなく、企業側の理解も必要。上司対策の意見交換で出た「信頼できる上司」の条件はこうだ。「相手に応じた指示をくれる」「個人的な感情ではなく、正当な評価をしてくれる」「いつもありがとうと言ってくれる」−。

 広野代表は「発達障害者が求める環境は、誰にとっても居心地のいいものになるのでは」とほほ笑む。


最新記事

サイト内検索