連載・特集

大阪発 羅針盤

 地域の取り組みや課題、人々の動きや思いを通して大阪の明日、日本の未来を展望します。

日朝首脳会談から10年 

2012年2月15日

拉致問題に目を向けよう 「風化」懸念被害者家族

拉致問題の大阪集会を前に顔を合わせた橋下徹市長、松原仁担当相、松井一郎知事(左から)
大阪市内で開かれた拉致問題を考える国民集会
脱北日本人妻の斉藤博子さんがづづった手記『北朝鮮に嫁いで四十年』

 北朝鮮が日本人拉致を認めた2002年9月の日朝首脳会談から10年−。拉致被害者の全員帰国を目指す日本政府の国内世論喚起に向けた集会が5日、大阪市内で開かれた。月日の経過に“風化”の懸念を抱く被害者家族に思いを致し、行き詰まる拉致問題に目を向けたい。

■あらゆる手段検討

 昨年末、北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記が死去し、三男の金正恩(キムジョンウン)氏が体制を継承した情勢の変化を契機に、拉致被害者家族会は「国際社会、日本、韓国と仲良くすれば経済的に潤うことを(北朝鮮に)もっと知らしめていくべき」(飯塚繁雄代表)と主張する。その訴えには「月日は遠慮なく過ぎていく」という現状の打破、事態の進展を願う気持ちがにじむ。

 折しも、政府主催の大阪集会前日の4日、北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会が大阪市内で開いたシンポジウムで、在日脱北者が金正恩氏の時代を展望していた。経済を再生するためには外国資本の投入が必須条件であり、改革開放に向くという見立ては、家族会の主張と重なる。

 ただ、年齢的に若く、実践経験の不足する正恩氏の時代は初期にあっては、正日時代の北朝鮮を統治した人物による摂政政治を背景に「いかなる政治路線も変わらない」との見方も示していた。

 とすれば、日本はどういう態度を取るべきか。

 一例として、1960年前後に在日韓国・朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡り日本に帰れないままになっているいわゆる「日本人妻」を、受け入れる環境づくりを通して日朝双方が近づき、接点を見いだして拉致問題の解決につなげるという提案がシンポジウムでも出た。その方策については「中途半端に妥協するのは良くない」との批判があるとはいえ、解決策に行き詰まる現状を前にあらゆる手段を検討する意義は大きい。

■身近に捉えたい

 日本人妻については、2001年に脱北した斉藤博子さん(71)=八尾市=の著作『北朝鮮に嫁いで四十年〜ある脱北日本人妻の手記』(草思社発行)に詳しい。公開処刑を見せられ、食糧難に直面し、ヤミ商売をせざるを得なかった実態を赤裸々につづっている。

 北朝鮮の実態を訴える活動を通して「日本には北朝鮮から脱北した人がいることを知らない人がまだたくさんいます。北朝鮮からなぜ逃げてきたのか知らない人がいました」と前出のシンポジウムに出席して伝えた斉藤さんの体験談に、世論を喚起する難しさを覚える。

 拉致問題について言えば、政府認定の拉致被害者17人のうち5人は02年10月に帰国したが、他の被害者について政府は「いまだ北朝鮮から安否に関する納得のいく説明はありません」との姿勢を堅持し、08年度から年間4〜6カ所の割合で「拉致問題を考える国民集会」を開いている。

 認定被害者が失踪した場所の多くは新潟、石川、鳥取など日本海側だが、北朝鮮による拉致の可能性が否定できない特定失踪者の中には大阪にゆかりのある人々も含まれる。5日の大阪集会では特定失踪者3人の各家族が紹介されていた。

 「世論を風化させないよう協力をお願いします」と飯塚代表が大阪の会場で代弁した被害者家族の心情を受け止め、拉致問題を身近に捉えたい。

□近年の日朝間の主な動き□

2002年9月 第1回日朝首脳会談(北朝鮮が初めて拉致を認める)

    10月 5人の拉致被害者が帰国

2004年5月 第2回日朝首脳会談(帰国被害者の家族が帰国・来日)

    11月 第3回日朝実務者協議(日本政府関係者が現地調査)

2006年2月 日朝包括並行協議

    7月 北朝鮮が弾道ミサイルを発射(日本政府は対北朝鮮措置を実施)

    10月 北朝鮮が核実験実施を発表(日本政府は追加の対北朝鮮措置を実施)

2008年6、8月

      日朝実務者協議(北朝鮮が調査のやり直しを表明)

2009年4月 北朝鮮がミサイルを発射(日本政府は追加の対北朝鮮措置を実施)

     5月 北朝鮮が核実験実施を発表(日本政府は追加の対北朝鮮措置を実施)

※日本政府拉致問題対策本部の冊子より
日本の姿勢明確に
もどかしさ募る家族会

〇…「日本政府は国家意思をはっきり示してほしい。全然足りない。日本は何がしたいのか分からない」とは5日の拉致問題を考える国民集会に出席した橋下徹大阪市長の弁。自身が大阪府知事だった時の朝鮮学校に対する補助金支出の厳格な要件を定めた経過を例に「世界が注視するメッセージを出し、それに伴う行動をしないと(事態は)動かない」と続けた。
 政府に注文を付ける橋下市長のスピーチは迫力に満ちるが、「日本国としての姿勢を出してほしいというお願いは以前からしている」と拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表。当事者として「首相がころころと代わって取り付く島がない」とのもどかしさも強い。
 日朝首脳会談から10年。拉致被害者の早期帰国を地道に訴え続ける家族会は、「あらゆる手段を使って解決に取り組む」という松原仁拉致問題担当相の決意と北朝鮮情勢の変化を前にした野田政権の手腕を注視している。