金井啓子の現代進行形

今年の漢字「金」は世界映さず

2016年12月29日

来年は暴力減って良い年に

 日本漢字能力検定協会が「今年一年の世相を表す漢字一字」を公募するようになって約20年。第1位の漢字が清水寺で披露される様子と合わせて、年の瀬の風物詩となった感がある。今年はリオデジャネイロ五輪での金メダルラッシュや、政治とカネに絡む問題が次々に浮上したことなどが理由で、15万票余りのうち4%超が「金」に投じられて1位となったそうだ。

 他にはどんな漢字が入ったのか気になった。「世相を表す」ことをうたっているのだから、上位に入った漢字を見れば、人々が世の中をどうとらえているのかを知る手がかりになると思ったためだ。2位は米大統領選や18歳選挙権施行を反映した「選」、3位は熊本地震などの天変地異や初の女性都知事誕生による都政の変革にちなんで「変」。4位以下20位までを並べてみると、「震」「驚」「米」「輪」「不」「倫」「乱」「災」「神」「揺」「新」「五」「騒」「地」「大」「動」「愛」となる。

 理由は、前述した出来事の他に、天皇陛下のお気持ち表明や、オバマ米大統領の広島訪問、著名人の不倫騒動、人気アイドルグループの解散発表、英国がEU離脱を決めた国民投票などが並んでおり、こういった出来事に対する関心が高かったのだと納得する。ただ、国内で起きたこと、報道される回数が多かったものに偏っており、それが本当の「世相」だったのかと考え始めると、ちょっと違うのではないかと思えてきた。とはいえ、遠い所で起きていることやあまり詳しく報道されないことが意識の中に残りにくいのは、日本人に限ったことではないだろう。おそらくどの国に住む人々も、自分の身の回りの出来事に大きな関心を寄せながら2016年を終えようとしているに違いない。

 ただ、あまり詳しく知らないということが、知ろうとしない行動へとつながり、無関心を生む可能性については危機感を覚える。

 たとえば、地中海を渡る途中で死亡した移民・難民の数が今年に入ってから5千人に達し過去最悪の規模となった。11年からこれまでに40万人以上が死亡しているシリア内戦の惨状をツイッターで伝えていた少女が、アレッポから無事避難したことが分かった。また、民族大量虐殺が始まる可能性が懸念されている南スーダンへの武器禁輸決議案が国連安全保障理事会で否決された。

 ごく最近入ってきたニュースばかりを挙げたが、「今年の漢字」を選ぶ前の段階と状況が大きく変わってはいない。世界全体を見渡すとこの1年は「暴」という文字が如実にその世相を表していると思えてならない。来年の今頃もまた「今年一年の世相を表す漢字」が発表されていることだろう。その頃には「暴」の根源となる出来事により多くの人の目が向いているだろうか。それとも、暴力行為そのものが劇的に減っているのだろうか。

 (近畿大学総合社会学部准教授)