フィギュアスケート企画

全日本ジュニア選手権 田中刑事(下)

2013年12月5日

基礎磨きジャンプ安定

教え子の成長に手応えをつかむ林祐輔コーチ(左)

 今季、田中刑事(倉敷芸術科学大)はフリープログラムの冒頭に4回転トーループを入れている。最初に跳んだのは2010年。しかし、シーズン序盤に(トリプル)アクセルの不調が続き、導入の計画は進まなかった。だが、今季は違った。スケーティングの基礎を磨いたことで、トリプルアクセルをはじめとするジャンプ全般が安定し、4回転の練習に取り組むことができた。

 田中は今季、すべての試合で4回転に挑戦し、ジュニアグランプリ2戦目のチェコ大会で初めて認定された。今大会のフリー、冒頭の4回転は惜しくも転倒したが、林祐輔コーチはこれについてこう話した。「今回の4回転は緊張からか思い切りが足らなかった。しかし、転倒したことよりも、その後のジャンプを跳び続けられたことを評価したい」

 昨季までの田中なら、序盤の失敗から崩れただろうと林コーチは冷静に分析する。「今季は基礎ができていることで疲れてきてもエッジに乗る位置がブレていない。エッジに乗っていれば跳べるということを(本人も)分かっている」。基礎の練習が正確なエッジワークを養い、演技全体に安定を生んだ。また、副産物も得た。コンパルソリーを通し、自分と対峙(たいじ)することで無理をすることがなくなったのだ。「刑事は疲れてくると右膝が痛くなる。それを自分から告げてくるようになってきた」

 フィギュアスケートの選手は、ジャンプの着氷を繰り返すことで右足に過重圧が掛かり、炎症が起きやすくなる。4回転の着氷が片足に掛ける荷重は2階から飛び下りる衝撃に相当し、その負担から長く競技を続ける選手ほど満身創痍(そうい)であるのが現実だ。来季はシニアに戦いの場を移す田中。さらにし烈でレベルの高い戦いに挑まなければならない。ベストな状態で長く競技生活を続けるためにも、自分の状態を把握することは極めて重要になってくる。

 演技内容の向上とともに、田中の進化の双璧となるのは精神面の成長だ。「エッジワークを自分のものにしたことで、今まで伝わらなかった『指導』が深く理解できるようになった」と教え子の成長に目を細める林コーチ。共有の認識が増え、コミュニケーションが深くなったことで練習の密度が濃くなったという。

 今大会、ショートプログラム「インスティンクト・ラプソディ」で見せた圧巻の演技。フリーの「ドクトル・ジバゴ」で見せたプログラムをまとめる演技。今季の田中はシニアの戦い方を既に身に着けたように見える。「世界ジュニアの表彰台が見えてきた。基礎の練習を続け、4回転の精度を上げてテクニカル勝負で真ん中を狙いたい」と林コーチ。田中は「今季は世界ジュニアに挑戦する最後のチャンス。悔いを残さないような戦いがしたい」と意気込む。

 11年に銀メダルを獲得した世界ジュニアから確実に田中は成長した。「全日本ジュニア」という壁も越えた。11月に「ひょうご西宮アイスアリーナ」に拠点を移したことで、曲掛けの時間が増えるなど練習の質も向上した。11月22日に19歳になった田中。世界のトップスケーターを目指す、しのぎを削る戦いはこれから始まる。