ステージドア 音楽堂通信

初音ミク 生オケとコラボ

2014年9月17日
大友直人指揮の大阪芸術大学管弦楽団・合唱団、大阪すみよし少年少女合唱団。中央スクリーンは初音ミクの動画=2014年8月19日、フェスティバルホール (C)Yoshikazu Inoue 井上嘉和
初音ミク 〓(00a9)Crypton Future Media,INC.

 ネットの動画サイトでブレイク、Jポップシーンに進出したバーチャルアイドル、初音ミク。正体は、プログラムに従い、声優の声を素材とする人工音声で歌うPCソフトウエアのキャラクター。電脳空間だけに生きる「仮想」シンガーだ。

 歌詞や旋律を入力すれば、だれでも自在に歌わせ、踊らせることが可能。実世界不在の彼女を独唱に据え「現実の」オーケストラや合唱団と初共演をはかり、宮沢賢治の文学世界の表現を試みた、大阪芸術大学の公演があった。

 作曲は冨田勲さん。1932年生まれ。NHKテレビ「新日本紀行」やアニメ「ジャングル大帝」のテーマ音楽で有名だ。70年代は米国発のシンセサイザーをいち早く導入、斬新な解釈で音楽界に新風を送り、レコードは米ビルボード誌の1位に。日本の伝統を感じさせる音階や抑揚・リズムなどを用い、音色・響きを重視、最新技術を活用した表現を重ねてきた。

 80歳を超え、挑んだのが「イーハトーヴ交響曲」。イーハトーヴは賢治の造語。故郷、岩手に思い描いた理想郷を指す。冨田さんは小学3年の時、賢治の世界に打たれた。創作機会を生涯、図ってきたが、東日本大震災を機に筆を執った。

 詩「雨ニモマケズ」や童話「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」など7楽章から成り、児童合唱団を含む300人近い演奏家と40分間を所要する。

 理論に勝った「現代音楽」と異なり、聴きやすくロマン主義的な作風だ。岩手民謡の素朴な躍動のリズム、賛美歌調の厳粛な斉唱など変化に富む。賢治が残した旋律やラフマニノフら先人の曲引用など、コラージュ手法も作品に膨らみを添える。

 賢治の童話や詩は、現実と幻想が混然一体である。キャラクターを構想する中、「パソコンにしか居られない初音ミク以外、考えられない」と起用を決めた。

 これまでにも彼女はロックバンドと共演している。あらかじめプログラムされたミクの歌やダンスに、ヒトが演奏を合わせる方式だった。冨田さんは逆に指揮に臨機応変するよう求めた。技師の創意で困難を乗り越え、「人形遣い役」で鍵盤奏者や映像技師が舞台に載った。

 カワイイ女子高生を思わせる、ミクの高く、愛らしい声色がスピーカーから流れる。姿がスクリーンに浮かぶ。青緑の長い髪を揺らし歌い、踊る。終演と共に完全に失(う)せた。

 強烈な存在感と裏腹の儚(はかな)さ。彼女の風姿は心に残る。音楽にも元々、そういう面があるが、ミクの場合はハナから実在していない。そこが生身の音楽家とは異なる点だ。

 人はだれも現実と仮想を合わせ、生きる。両者の「共創」は、あらゆる表現活動の源泉だろう。この作品もそうだが、新たなメディアと古典的な演奏組織とを接合し、表現の可能性を拓いた創意と手腕は画期的。それを自主事業で手掛けた大学の、進取の気風も素晴らしい。これぞフロンティア・スピリッツ!

 (あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール 谷本 裕)


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