日曜インタビュー

誕生と旅立ちの間で

映画「うまれる ずっと、いっしょ。」
監督 豪田 トモ
2014年11月2日

相手に伝わるように

「向き合う勇気を…」と話す豪田トモ監督=大阪・アメリカ村のシネマート心斎橋
「うまれる ずっと、いっしょ。」の安田さん一家=〓(00a9)2014 Indigo Films

 誕生をテーマにしたドキュメンタリー映画「うまれる」(2010年)の続編「うまれる ずっと、いっしょ。」(ミモザフィルムズ配給)が今月29日から大阪のシネマート心斎橋で公開される。今回は3組の夫婦と家族の心温まる物語で「誕生と旅立ちの間の時間の大切さが観客に伝わるように作った」という豪田トモ監督に話を聞いた。

■虎ちゃん再び

 −前作に出演した「虎ちゃん」の元気な姿を見られてうれしかった。

 多くの人からそう言われるので、僕もうれしいです。おかげさまで前作は大ヒットし40万人の方に見ていただくことができた。虎ちゃんは松本哲・直子さん夫婦の長男で、1歳まで生きられる可能性が10%という18トリソミーという染色体の障がいを持って生まれた。彼は今年の12月で6歳になる。

 −目がキラキラしてたくましくなった。

 お母さんが「虎ちゃんは短距離走を全力疾走している。いま青春真っただ中なんです」とおっしゃる。一時危篤状態になった時もあったが奇跡的に回復し、両親が桜の花見に連れて行き「今年も桜が見られてよかったね」とつぶやく。虎ちゃんの桜の花を見る目が本当にキラキラしており、青年のようにりりしい。

 −両親が沖縄旅行に連れて行くシーンもいい。

 それまで口から食事を取ることができなかったのに、スープをスプーンで口に含むようになる。美しい海や自然の環境の中で、虎ちゃんの細胞が生き返ったかのようでとても感動的だった。5歳になった七五三のお祝いでもちょっと誇らしげな表情の虎ちゃんがまぶしかった。決して諦めず、夫婦が病気の虎ちゃんと向きあって生きている姿が尊いと思う。

■パパの告白

 −血のつながりのない父子の安田家の会話がスリリングだ。

 安田慶祐さんは初婚で、2歳の昊矢君を連れた千尋さんと結婚。昊矢君が5歳になった時、自分が本当のパパじゃないことを彼に話そうと決心する。千尋さんも賛同するが、いざとなったらなかなか言い出せない。何の疑いもなくパパになじみ「パパっ子」の昊矢君だから、余計に告白しにくい。

 −見ている側も慶祐さんになったようにドキドキする。

 パパが言いにくそうにするのを見て、昊矢君が「ちょっと待って」と何回か席を外し冷蔵庫に氷を取りに行くのでなかなか切り出すタイミングが見つからない。こんなシーンは劇映画の脚本では書けないだろう。お母さんは昊矢君の反応を気にしながらも、慶祐さんの気持ちを推し量っている。

 −すごく悩みが多いパパだけど、人間はすごく明るい。

 僕が前作を撮るキッカケになったのは、僕自身が家族とうまくいってなくて、親に愛されて育ってないのではないと思ったことと、子どもは胎内記憶があり「親を選んで生まれてくる」ということを聞いたからだった。親と子の関係と血のつながり。家族とは何なのか。前作を撮り終え、僕自身に子どもが生まれた。慶祐パパは年下だけど、精神的に僕と重なるところがあった。

 −もう一つのエピソードが「旅立ち」。

 今賢蔵さんと順子さん夫婦の場合。ある在宅医から「撮ってほしい夫婦がいる」と紹介された。病気であまり長くないという順子さんと介護する仲のいい夫の賢蔵さん。そして娘さんが出産間近ということがあって「命と家族のつながり」を感じた。ところが撮影に入った翌日に順子さんが急逝。賢蔵さんや家族の嘆きは大きい。折りしも、僕の妻の父親が急逝した。義母の嘆きが大きいことを実感し、賢蔵さんのことが気になって再び今家を訪ねた。

■「遺されること」

 −賢蔵さんはなかなか立ち直れない。

 「遺(のこ)されること」について考えたことがある人は少ないと思う。一度落ち込んだ精神状態が日常に戻っていく「グリーフ・プロセス」(悲しみを癒やす時間)というのがあって、それを知っているか否かで人に対する接し方が違ってくる。賢蔵さんを順子さんの一周忌まで追って「遺される」というテーマのストーリーが出来上がった。

 −映画に人生のヒントがいっぱいあるような気がする。

 今回は「伝える」という自我ではなく、相手に「伝わりたい」と思ってもらえる映画にしたかった。「伝わるように」なっていればうれしい。家族はどこにいても「ずっと、いっしょ」。

 ごうだ・とも 1973年生まれ。東京都出身。中央大法学部卒。6年間会社に勤め、映画監督になるため脱サラし29歳でカナダ・バンクーバーに留学し映画を学ぶ。4年後帰国し映像クリエーターとして働きインディゴ・フィルムズを設立。2010年に初監督作「うまれる」を発表。公私共のパートナー、牛山明子プロデューサーと二人三脚で「2040年までシリーズを」。