日曜インタビュー

男と女の恍惚と絶望

映画「後妻業の女」
監督 鶴橋 康夫
2016年8月14日

大阪弁の人間喜劇

「全編大阪弁の映画は初めて」と話す鶴橋康夫監督=大阪市内のホテル
大竹しのぶと豊川悦司=(C)2016「後妻業の女」製作委員会

 直木賞作家・黒川博行のハードボイルド小説を映画化した「後妻業の女」(東宝配給)が27日から、大阪ステーションシティシネマほかで公開される。大竹しのぶと豊川悦司が主演し「男女の恍惚(こうこつ)と絶望を描いた、大阪弁の人間喜劇になった」という鶴橋康夫監督に話を聞いた。

■実事件と小説

 −原作が出た後、よく似た事件が起きて話題になった。

 60代の女性が高齢の独身男性と結婚し、その後殺して財産を自分の物にする。次々と7人も殺したといわれる事件。それが黒川さんの「後妻業」という小説にそっくりで、みんな驚いた。僕も黒川ファンだったので読んでおり、映画になると思って黒川さんに会いに行った。黒川さんは僕と一緒でアメリカの作家、レイモンド・チャンドラーが好きで気が合った。

 −映画は原作になかった笑いの部分が入っている。

 原作はハードボイルドで、男と女の恍惚と絶望が描かれている。同時に全編が大阪弁であり、スタイリッシュだが、話と人物におかしみもあるような気がした。長い間、ドラマ作りをしていて、大阪の読売テレビ社員だった僕が本格的に大阪のドラマを作るのは初めてなので、一度、笑いに徹した大阪映画をやろうと思った。

 −大竹しのぶ、豊川悦司を主演に選んだのは?

 原作を読んで1ページ目で、悪だくみの電話している男女は豊川さんと大竹さんだと思った。大竹さんは40年前から一緒にドラマを作ってきた大好きな女優さん。豊川さんは映画「愛の流刑地」に出てもらって、いろいろ助けてもらった俳優でもう一度やりたいと思っていた。ほかに津川雅彦さん、尾野真千子さん、永瀬正敏さん、笑福亭鶴瓶さんなどぜいたくなキャスティングになった。

■高齢化現象

 −日本の高齢化現象が社会背景にある。

 だまし、だまされる両方が高齢化しているし、映画を作っている監督の僕も、年を取ってできなくなってきたことが多くなった。しかし、高齢者をだます小夜子(大竹)は悪い女だが、憎めないところもある。高齢で病気がち、何もすることがない独身男の相手をして、少しの楽しい時間を過ごしてやる。こんないいことはない。

 −それがお金もうけで、結婚相談所の栢木(豊川)と組んだ詐欺だからいかん。

 原作はそんな悪人の犯罪をハードボイルドで描いて面白いが、映画はそれを半ば笑って見てもらおうと思って作った。映画で極悪人を描くことはあるが、これは悪いことをする人間を、斜めから見て笑ってもらいたい。同時に、案外、小夜子はかわいい女ではないのかと、大竹さんが思わせてくれるので、だまされてほしい(笑)。

 −結婚詐欺にかかる高齢者は必ずしも不幸な顔をしていない。

 津川さんが演じた80歳の元女子短大教授は、小夜子を信頼しており、彼女に頼っている。彼には2人の娘(長谷川京子、尾野真千子)がいて、父親の心配をしているが、小夜子ほど常ではないし、介護として付きそうこともできない。それは今の社会の介護環境や家族の問題もはらんでいる。

 −原作は「後妻業」で、映画は「後妻業の女」。

 原作は「後妻業」という犯罪を扱っており、映画はそれを犯す「女」を扱った人間ドラマ。そういうつもりだったし、僕がテレビシリーズで浅丘ルリ子さんと組んでやった「女」シリーズにちなんで付けさせてもらった。

 −映画は大阪ロケも多く、全編大阪弁。

 大竹さんは東京生まれで、映画「青春の門」の織江役があったので九州出身と思う人もいるが、大阪弁もうまい。前亭主が関西の人だったこともあるだろうが、今回は方言指導の人だけでなく、大阪出身の豊川さん、鶴瓶さんらに教えてもらって頑張ってくれた。鶴瓶さんとはベッドシーンもある。

 −大竹さんと尾野さんの大げんかシーンも見どころ。

 大阪ロケは中之島で遊覧船「きらり」の婚活パーティーや天王寺の近鉄デパート前、大正区の千歳橋、なんばハッチなどに行っているが、とある焼き肉屋で撮った大竹VS尾野のバトルシーンは迫力があった。大阪の人間喜劇を楽しんでください。

 つるはし・やすお 1940年生まれ。新潟県出身。中央大法学部卒業後、読売テレビに入社。以後ドラマ畑で演出を続け、質の高い社会派として活躍。芸術選奨文部科学大臣賞など多数受賞。映画は「愛の流刑地」(2007年)「源氏物語−千年の謎−」(11年)を経て「後妻業の女」で3本目。鶴橋ドラマの集大成であり、新たなフィールドへの挑戦も。