日曜インタビュー

夢の中で会うことから

映画 「君の名は。」
監督 新海 誠
2016年8月28日

昨日までの僕は序章だった

「若い男女の間の距離を描いている」と話す新海誠監督=大阪市北区茶屋町の東宝関西支社
(C)2016「君の名は。」製作委員会

 日本のアニメ映画の新しい才能といわれている新海誠監督の新作「君の名は。」(東宝配給)がTOHOシネマズ梅田・同なんばで上映されている。思春期の男女のコミュニケーションを描き続ける中で「夢の中で出会うことから始まり、昨日の僕は序章だったと思うような物語にしたかった」という新海監督に話を聞いた。

■300館公開

 −若いアニメ映画ファンの間でとても人気がある。

 個人で制作した短編「ほしのこえ」からスタートし、前作の「言の葉の庭」で初めて東宝の配給で上映していただいた。規模は小さかったが、それで少し僕のフィールドが広がったので、次はもっとという感じがあって、それが今回の作品につながった。約300館規模の公開で、僕の手を離れたという寂しさはあるが、エンターテインメント作品としてどこまで通用するか楽しみ。

 −美しい映像と、若い主人公男女の恋がテーマになっている。

 僕は思春期の男女のコミュニケーションと、その間の距離の問題をモチーフに作品を作っている。ファンタジックなSF展開が入ったりすることもあるが、日常のシリアスな生活を描くことも少なくない。「君の名は。」は今までの延長線上で、さらにポピュラーに、エンタメの要素も盛り込みながら楽しい作品にしたかった。

 −主人公の男女が「会いたい」と思っても「会えない」という話になっている。

 知らない者同士がお互いに知らない場所で生きていて、もしかしたら2人は出会うかもしれない。現実で会えないかもしれないが、何らかの形で触れ合うことができないか。そんな物語を作りたいと思ったのが脚本を書くきっかけだった。田舎に住んでいる女子高生の三葉は都会のイケメン男に出会いたいと思っており、都会の男子高生の瀧は田舎のかわいい女の子に出会いたいと思っている。

 −お互いに相手の夢を見るところから始まる。

 大体、みんな夢から始まる。そして、ファンタジーだけれど、2人の身体が突然入れ替わって、何ともいえない体験ドラマになる。人間、相手の気持ちになって考えるということはなかなか難しいけれど、身体ごと相手になれば、一番そのことが体感できる。お互いの相手に出会えないが、相手の身体と心は触れ合っている。やがて、2人は本当に会いたいと思い、瀧が執念を込めて探すのが物語の後半になる。

■メロドラマ体験

 −そのプロセスがミステリーで、すれ違いのメロドラマのようになっている。

 「君の名は」というメロドラマ映画が昔あったし、「転校生」という男女入れ替わりの青春映画もあった。今回の映画とは直接の関係はないけれど、その辺にリスペクトしながらドラマを作った。アニメの特徴を生かして、都会と田舎の風景をきれいに撮ることで、主人公たちの「あこがれ」の気持ちを出して、さらに映画を見る人たちにそれを同時体験してほしいと思う。

 −「会えない」のは辛いけど、その先に「幸せ」がある。

 今までも辛い話は作ってきているが、今回は特別な思いがある。やはり3・11以後、日本が大きく変わったし、日本人も変わったと思う。初恋は昔から結ばれることが少ないが、何とかそれがかなうように祈りたいし、失うものは多かったけれど、強く生きていこうというメッセージは作品の底辺に置いている。主人公の瀧はすごくあがくが、「誰かがそこにいる」という思いが彼の気持ちを豊かにする。

 −スタッフ、声の出演もそろっている。

 キャラクターデザインの田中将賀さん、作画監督の安藤雅司さんが参加して下さったことが大きく、瀧の声の神木隆之介さん、三葉の上白石萌音さんは本当に役にぴったりで、作品が成立し感謝でいっぱい。長澤まさみさん、「まんが日本昔ばなし」の市原悦子さんの参加も力強かった。それに音楽のRADWIMPSにすごく助けられた。「昨日の僕は序章だった…」(「スパークル」)というのは野田洋次郎さんの曲でそれがテーマと重なった。

 しんかい・まこと 1973年生まれ。長野県出身。中央大文学部卒業後、日本ファルコム入社。2000年にフリーになり個人で短編アニメ「ほしのこえ」(02年)を発表。以後「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」など。国内外の映画賞多数。次世代の監督として高い評価と支持を受けている。