日曜インタビュー

活劇の面白さ前面に

映画 「ディアスポリス異邦警察 D IRTY YELLOW BOYS」 
監督 熊切 和嘉
2016年9月4日

松田翔太が全力で走る

「懐かしい大阪ロケも行った」と話す熊切和嘉監督=大阪市北区の東映関西支社
松田翔太=(C)リチャード・ウー、すぎむらしんいち・講談社/映画「ディアスポリス」製作委員会

 リチャード・ウー&すぎむらしんいちの同名コミックを実写映画化した「ディアスポリス異邦警察 DIRTY YELLOW BOYS」(東映配給)が梅田ブルク7ほかで上映されている。「活劇の面白さを前面に出して、主演の松田翔太が全力で走る映画になった」という熊切和嘉監督に話を聞いた。

■無国籍な人々

 −文芸映画が続いていたが、一転アクション映画になった。

 「夏の終り」「私の男」と文芸恋愛映画が続いたので、次は違うものをやりたいと思った。昨年、8カ月間文化庁新進芸術家海外研修制度でフランスのパリに留学したが、その間足しげく名画座に通い1970年代のアメリカン・ニュー・シネマを多く見た。ずっとパリの移民街に住んでいたので、無国籍なアジア人を描く「ディアスポリス」の仕事が来て気持ちがつながった。

 −東京に住む異邦人を守るための警察官が主人公。

 東京に約15万人の密入国異邦人や不法就労外国人がいるとされるが、難民認定されるのは難しく日本の国や警察は彼らの生活を守ってくれない。そこであるのがいわば裏都庁の中にある裏警察の「ディアスポリス」で、ここの署長の久保塚早紀に松田翔太が扮(ふん)している。彼は原作連載中に読んでいてファンだったという。

 −東京に住むアジア人同士の戦いが描かれる。

 テレビの10話分が終わってすぐに映画版の撮影をした。ドラマは人種が入り乱れ、ルールが違うアジア人の間に起こる事件に、久保塚と助手の鈴木(浜野謙太)らが間に入って解決する形で、映画版は僕が一番好きだった一編「DIRTY YELLOW BOYS」(留学生犯罪集団)を選んだ。中国系の若い2人、周(須賀健太)と林(NOZOMU)が組織に反乱を起こし、東京から大阪まで逃亡し、久保塚と警察、そしてヤクザのボス(真木蔵人)らが追うロードムービー。

■体を張ること

 −松田翔太が走るシーンが多い。

 パリで見た「フレンチ・コネクション」で主演のジーン・ハックマン、あるいはバスター・キートンの映画もいつも走っている。人を驚かせ、楽しませるために体を張るというのはあらためてすごいと思った。映画の原点は活劇にありで、それをこの映画でやろうと。映画で久保塚が左腕にギプスをはめているのはテレビの10話でケガをしていたのでその続きで、白い包帯に外国語が書いてあり映画のテーマに重ねている。

 −久保塚は無国籍でクールだが、人間的に熱いところがある。

 翔太君はその辺がとても気に入っていて、思い入れも強い。事件を追っていて不可抗力で間に合わなかった場合に悲しそうな顔をするが、一方では酒を飲んで暴れることもある。クールなところと熱い部分の両方がある。その辺は父親の松田優作さんに似ていると思うし、そういうアウトローのにおいがこの映画の翔太君の魅力になっている。

 −撮影現場で大変だったことは?

 ドラマは久保塚と周ら2人、それにヤクザのボスが三つどもえになって展開するが、久保塚がボスに捕まって子分らに川に投げ込まれるシーン。翔太君が自ら希望してやったが、とにかく冬場の撮影でドライスーツなしでやったので「寒い!」と。それもギプスが外れる事故があり撮り直しでもう1回投げ込まれて「これはシンドイ!」と泣きそうな顔をしていた(笑)。

 −後半の周らと久保塚の格闘シーンは?

 銀行の金庫の前で周と久保塚の大乱闘があるが、2人はほとんどアドリブで暴れて、すざまじいシーンになった。長回しで撮っていて、後の編集で気がついたのだが、翔太君が右手で何かを背中の後ろに隠した。それは何かセットの外れたトイで、それが見えるとカットになるから翔太君はカメラに写らないようにした。その俳優ワザには驚かされた。

 −「パート2」も?

 まだ面白い原作もあるから、できたらやりたい。翔太君もそう思っているようだ。僕にとって今回の映画は一つのステップになった。翔太君と出演者、そしてスタッフに感謝している。

 くまきり・かずよし 1974年生まれ。北海道出身。97年に大阪芸大卒業制作で作った「鬼畜大宴会」がPFFで準グランプリを受賞し国内外で高い評価を。「ノン子36歳(家事手伝い)」「海炭市叙景」「夏の終り」など多数。「私の男」で第36回モスクワ国際映画祭最優秀作品賞と最優秀男優賞(浅野忠信)を受賞。「ディアスポリス」はテレビ版の7・8話も担当。