日曜インタビュー

全員野球で作れた!

映画「オーバー・フェンス」 監督 山下 敦弘
2016年9月11日

3部作最終章の責任

「自分と重なる等身大の作品になった」と話す山下敦弘監督=大阪市西区の新通ビル
オダギリジョーと蒼井優=(C)2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 函館出身の作家、佐藤泰志(1949〜90年)の同名原作を映画化した「オーバー・フェンス」(東京テアトル配給)が17日からテアトル梅田、シネマート心斎橋で公開される。「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」に続く映画3部作最終章で「責任が重かったけれど、全員野球で作れた」という山下敦弘監督に話を聞いた。

■知人の後を受けて

 −佐藤泰志原作映画3部作最終章といわれている。

 大阪芸大の先輩である熊切和嘉監督が第1作「海炭市叙景」(2010年)で、同期の呉美保監督が第2作「そこのみにて光輝く」(14年)を撮ってとても評判が良かった。知っている人の後を受けて撮るということと、それを締めくくれるだろうかというプレッシャーがあって、責任を感じながら取り組ませてもらった。

 −前2作は函館に住む人たちのうっ屈した生活が描かれた。

 芥川賞に5回ノミネートされながら受賞はできなかった佐藤さんの悔しい心情がそこに隠されていたし、作り手の思いがそれぞれ重なっていた。3作のプロデュースに当たった星野秀樹さんは「最後は少し希望がある明るい作品にしたい」という注文だった。実際の原作もそうであったし、落ちていくのではなく、今度はフラットに描きたいと僕も思った。

 −離婚して函館で1人暮らしをしている白岩(オダギリジョー)が原作者に重なる。

 佐藤さんは実際に職業訓練所に通ったことがあり、その体験を書いている。妻子と別れ、もう子どもと会えないという状況もあって、訓練所に通い夕方コンビニで弁当1個とビール2本を買って帰るのが日課。訓練所の人間との付き合いが彼の精神のバランスを取っているところがあり、「普通ではないよ」という人たちが登場する。その一人の代島(松田翔太)から紹介された女性の聡(蒼井優)との付き合いが話の中心になる。

 −聡は函館山にある寂れた遊園地で働いている。

 そこは前2作で出てこなかった場所で、前2作の撮影を担当した近藤龍人カメラマンが選んだ。近藤も同じ芸大同期で友人。これまで何度か一緒に仕事をしてきて僕のことを分かっているのでやりやすいのと、逆にやりにくいところもあるが、彼の3部作の最終章でもあるので、その様子を見ながら甘えてもいいかなと思った。

 −オダギリジョーの白岩が聡と出会って変わっていく。

 脚本が「そこのみにて光輝く」の高田亮さんで、彼が佐藤作品2本目というのも僕の味方で面白かったし、スタッフや出演者がホンを読んで一つになったようなところがある。僕も主人公の白岩と年齢が近いこともあって、彼の目線で周囲の人物を見るし、感情移入していくのを感じながら撮っていた。

■蒼井優の怒り?

 −聡は初め感情的で、何を考えているか分からない。

 僕も白岩と一緒で、聡が急に怒り出したりするのが分かりにくいところがあって、蒼井さんには説明せずに気持ちを託したところがあった。撮影後に「監督は何も言ってくれなかった」と怒っていたが、彼女が一番役作りに苦労していたのは間違いない。聡が鳥の愛情表現をパントマイムで躍るシーンは、佐藤さんの別の短編「黄金の服」に出てくる女性を参考にしている。

 −白岩と聡の頭上から白頭鷲(ワシ)の羽根が降ってくるシーンがある。

 あれは現実的ではなくシュールにやったもので、映画だからできるでたらめさというか、今回やりたかったことではある。このアイデアはメークの女性が言ってくれたもので、アイデアに賛成かどうかスタッフに聞いて「採用」した。聡の有り余るエネルギー、コントロールできない感情を蒼井さんがしっかり出してくれた。

 −そして訓練所の男たちが野球をするシーンにつながる。

 この映画はスタッフ、俳優がみんな同じ目線に立って作ったようなところがあり、いわば「全員野球」で作れた映画。出来上がったものは、自分の感覚と違うところにいっているが、それが面白い。今回は少し足を止めて、自分を客観視しながら撮った感覚がある。世代的に等身大という実感も大きい。

やました・のぶひろ 1976年生まれ。愛知県出身。大阪芸大卒業制作「どんてん生活」で注目を浴び、商業映画第1作「リンダ リンダ リンダ」がスマッシュヒット。「天然コケッコー」「松ケ根乱射事件」「味園ユニバース」など多数。「松ケ根−」「味園−」でおおさかシネマフェスティバル監督賞受賞。松田龍平主演の次作「ぼくのおじさん」(11月3日公開)が控えている。