日曜インタビュー

俳優の力と犯人探し

映画「怒り」
監督 李 相日
2016年9月25日

人を疑う弱さと信頼と

「俳優さんの力があって映画が成立した」と話す李相日監督=大阪市内のホテル

 芥川賞作家、吉田修一の同名原作を映画化した「怒り」(東宝配給、李相日(リサンイル)監督)が大阪ステーションシティシネマほかで上映されている。社会派のミステリー大作で俳優陣の競演が話題になっており「俳優陣の力と犯人探し」「人を疑う弱さと信頼」などが見どころという李監督に話を聞いた。

■吉田原作と再び

 −吉田原作は「悪人」に次いで2度目の映画化になる。

 あの時は吉田さんが一緒に脚本を書くという形で参加してくださったが、今回は「僕はできません」と委ねられた。前回一緒にお互いに粘って書いて苦労したけれどいい結果になったので、また一緒かなと思ったが、今度の作品は「脚本化が難しい。映画の専門知識がいる」と言われた。原作を読んで、これは僕も「無理だ!」と最初は思った。

 −どの辺が難しかったのか。

 原作は三つの場所、東京、千葉、沖縄が舞台になって、そこで違うドラマがあり、そこに出て来る男3人(綾野剛、松山ケンイチ、森山未來)が、東京八王子で起きた夫婦殺人事件の犯人に顔が似ている設定。その三つの話を一つの帰結点に結びつけなくてはならない。原作にラストはありそうでなく、映画としての決着が必要だった。

 −撮影は映画の順番と逆で東京、沖縄、千葉で行われた。

 それぞれ話が濃いし、テーマが重い。原作通りやっていると時間がかかる。一度三つの話をシャッフルし、脚本で三つの話を部分的に分けた映像でつなぐことにした。撮影は一つの場所で全部撮っているが、間をつなぐことを考えながらやらねばならないので時間がかかる。撮影が終わって、もう一度映像をシャッフルして編集したので、余計に時間がかかった。

■難しい役どころに

 −東京編の優馬(妻夫木聡)と直人(綾野剛)はゲイで結ばれるが。

 独身貴族の優馬は母親(原日出子)がホスピスの病院に入っており、仕事の後、ゲイバーの暗闇でその日の恋人を探す。妻夫木さんは前回の「悪人」で組んだ時、米映画「ブロークバック・マウンテン」のヒース・レジャーを見ておいてと言ったので、ゲイの芝居は抵抗がなかったと思う。妻夫木さんは綾野さんと撮影前に同居して勉強し取り組んでくれた。

 −沖縄編は旅人の田中(森山未來)が沖縄の少女・泉(広瀬すず)に出会う。

 田中の役は原作では「どこにも居場所がない奴の目」と書かれていて森山さんにぴったりだった。そして出会った泉が那覇の街で米軍基地の兵士に傷つけられる事件が起きる。広瀬君はこの役を自分から志願してくれたので、オーディションで選んだ同級生の辰哉(佐久本宝)と一緒に徹底的にリハーサルを行い撮影に臨んだ。この役には、沖縄のこれまでの歴史を重ねて描いた。

 −そして千葉編で風俗嬢だった娘の愛子(宮※あおい)と父親の槙洋平(渡辺謙)のドラマに。

 都会の風俗で働いていた愛子が病気で倒れ父親の洋平が千葉の漁港にある家に連れ帰って来る。愛子は漁港組合で働き回復し、そこで働くアルバイトの哲也(松山ケンイチ)と仲良くなり一緒に暮らすと言い出すが、洋平はよそ者の哲也が信じられず、さらに娘の行動を素直に許すことができない。謙さんとは「許されざる者」で一度組んで、次やるときも「出るよ」と言ってもらっていたが、これまでやったことがない役に挑戦してもらったので、戸惑いがあったかもしれない。

 −謙さんと宮※の親子は2人ともこれまでのイメージになかった役。

 2人がこすれ合って何か新しいものが出てくる気がしたし、それを狙ったキャスティング。親子で「信じ合うこと」とは何か。「信じることの難しさ」「人を疑ってしまう闇」を描きたかった。タイトルの「怒り」とは、彼らそれぞれの内なるものへの問いかけなのかもしれない。そしてそれは「信頼」へつながる経緯。俳優陣の力でその辺をうまく表現できた気がする。

※は立つ崎
 り・さんいる 1974年生まれ。新潟県出身。神奈川大卒業後、日本映画学校(現・日本映画大学)に入学。99年の卒業制作「青chong」がPFFグランプリほか4冠受賞。2004年「69sixty nine」(東映)でメジャーデビュー。「フラガール」(06年)「悪人」(10年)で日本アカデミー賞ほか国内外の映画賞多数。米映画をリメークした「許されざる者」(13年)で渡辺謙と組んで今作につながる。