日曜インタビュー

流れる時間が違う

映画「函館珈琲」 監督 西尾 孔志
2016年10月30日

自分の居場所探しを

「温かい映画にしたいと思った」と話す西尾孔志監督=大阪市北区のシネ・リーブル梅田
黄川田将也(左)と片岡礼子=(C)HAKODATEproject2016

 大阪出身の西尾孔志監督が北海道でオールロケして撮った新作「函館珈琲」(太秦配給)が大阪のシネ・リーブル梅田で上映されている。孤独を抱えた男が北海道の函館にある古びた館で、そこに住む人々と触れ合う中で「自分の居場所を探す」物語。函館の町に「静かに流れる時間を描いた」という西尾監督に話を聞いた。

■力量を試す

 −デビュー作「ソウルフラワートレイン」は大阪の映画でしみじみさせた。

 大阪・新世界で生きる若者と、お年寄り男性の触れ合い話で、僕の大好きな森崎東監督の「女、生きてます」のような作品になった。

 −今度は一転、北海道の映画。

 事実上、2本目の劇場映画。前作は自分の作りたいものを撮ったが、今回はプロデューサーから依頼があった外注作品で、自分の監督の力を試すチャンスになった。いとう菜のはという人のシナリオで、出演者もほとんど決まっているところで参加した。北海道の函館港イルミナシオン映画祭の公募でシナリオ大賞を受賞した作品。

 −函館と言えば佐藤泰志の「オーバーフェンス」などの3部作がある。

 あの佐藤泰志の世界とは違う形の函館が描かれており、登場人物も、主人公は都会から流れて来た、もう若くない桧山英二(黄川田将也)と、彼が住むことになる西洋風アパート「翡翠館」の住人との触れ合いを描いている。桧山は小説家で、1作目で賞を取るがその後書けなくなっていて、尊敬していた先輩の急死ということもあってもどかしい孤独をかこっている。

 −「翡翠館」の住人と、函館の街がすごく優しい。

 ガラス玉で美しい小物を作っているデザイナーの堀池一子(片岡礼子)、ぬいぐるみのデディベアを作っている職人の相沢幸太郎(中島トニー)、ピンホール写真を撮っている対人恐怖症の藤村佐和(Azumi)がそこに住んでおり、家主の萩原時子(夏樹陽子)は彼らの仕事と人間性が気に入って、いい付き合いをしている。そこへ古本屋をやりたいという桧山がやって来る。

■コーヒー部屋

 −アパートが、古い昭和のにおいがする。

 昔からあった倉庫があって、そこをお借りして内部を少し改装して出来上がったロケセット。桧山がコーヒー好きで、みんなにそれを入れて振る舞うのが日課のようになるが、それが部屋に立ちこめていいにおいがする。函館のコーヒーメーカーに全面協力してもらって、俳優とスタッフはいつでもコーヒーが飲める撮影現場になった。

 −映画は暗くなりそうだが、全体的に明るい。

 桧山はある意味、人生に絶望しているようなところがあり、まるで10代の子が「大人になりたくない」と言っているような感じ。今の時代、将来の不安がない人はいない。僕自身10代に戻って、当時背負っていたものを思い出しながら大人になる意味を考えていた。ぶつかり合ったり、嫉妬したり、恋愛をしたり。住人みんながそれをリフレインしながら、静かな時間の流れの中に身を置いている。

 −よそ者の桧山が函館で自分の場所を見つける話だ。

 住人のみんなもそうで、家主もまた、それを求めているようなところがある。家主は亡くなった主人が乗っていただろう動かないバイクを大事にとっていて、それを桧山が必死に修理して乗れるようにする作業につながっている。僕もまた大阪の人間でよそ者だけど、ここで生きるとすればどうするかと考えながら撮影していた。

■作品の温かさ

 −函館の街はどこかおおらかさがある。

 大阪はちゃらんぽらんなところがある半面、結構おおらかで面白い人が多いが、函館の風土もそれに近いところもある。脚本を書いたいとうさんは名古屋の人でシングルマザー。片岡さんが演じた一子に通じている。撮影中、黄川田さんと片岡さんらがとても仲が良く、いい雰囲気だったのも作品の温かさにつながったと思う。

 にしお・ひろし 1974年生まれ。大阪府出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪で自主制作映画を撮り、2005年にCO2で大阪市長賞受賞。大学などで講師をしながら13年に「ソウルフラワートレイン」で監督デビュー。おおさかシネマフェスティバルで新人監督賞。「キッチン・ドライブ」(14年)に続いて今作は劇場映画第3弾。