日曜インタビュー

電気がない、どうする?

映画「サバイバルファミリー」 
監督 矢口 史靖
2017年2月12日

頑張る姿どこまでリアルに

「異色なハード映画になりました」と話す矢口史靖監督=大阪・茶屋町のアプローズタワービル
「サバイバルファミリー」の一場面=(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

 青春映画からコメディーまで幅広いエンターテインメント映画を手掛けるヒットメーカーの矢口史靖監督の新作「サバイバルファミリー」(東宝配給)が大阪ステーションシティシネマほかで上映されている。突然の長い停電で「電気のない生活を余儀なくされた家族が、どこまでリアルに頑張れるかを描いた」という矢口監督に話を聞いた。

■パソコン音痴

 −これまでの青春コメディー路線と大分違う映画になった。

 企画は2001年の「ウォーターボーイズ」を撮った頃から考えていた。「電気がなくなった世界」はどうなるか。僕はモバイルやパソコンに音痴なところがあって「いっそ全部使えなくなればいいのに…」と思ったのがきっかけ。不便になることで、逆に取り戻せる豊かさがあるのではないかと思った。

 −その企画が今実現したのはなぜ?

 2003年に北米で起きた大停電のニュースを見て「やろう」と思って実現に向けて動いたが、ほかの企画が優先されそのままになっていた。その後、東日本大震災が起きたし、火災、水害、地震などが全国に起こっている。うちのプロデューサーから「あれを今やろう」という声が上がって、企画が十数年ぶりに復活した。

 −どうやって物語の構成を考えたのか。

 これまでコメディーの要素が強い映画が多かったが、今回はサバイバルが最も向いていない家族を登場させて、それが「電気のない生活」にどう対処していくかを描こうと思った。それは日本人の代表でもあるし、僕自身の物語でもある。そこで浮かんだのが小日向文世さんで、無力でダメな日本のお父さんを中心にした家族を作った。

■スマホも使えない

 −電気がなかったら誰でも変になっていくと思うが。

 1日や2日だったら「やっと生き返った」ということで、また普通の生活に戻っていくだろうが、1週間、1カ月、1年と続いたらどうなるか。取材でいろいろな世代に聞いたら若い人は「スマホが使えなかったら生活できない」と意外とすぐにギブアップする。反対に「不便だけど、明治時代に戻ったと思えば我慢できるかも」というお年寄りの余裕派もいた。

 −主人公の鈴木義之(小日向)は、その中間の世代になる。

 一番不器用なお父さん世代。そして嫁さんで専業主婦の光恵(深津絵里)も、料理で魚処理ができないし、生きることにそんなに器用ではない。おそらくどんな主婦でも、電気のない生活に耐えられる人は少ないが、それでも「もう少し頑張ろう」とお父さんについていくけなげな主婦を深津さんがリアルに演じてくれている。

 −子どもも一時パニックになるが…。

 それまでわがままに育っているので、事が起きると大慌てで「どうしよう」となる。急に頼りにならない両親にすがりつくようになるのがおかしい。2人の子どもの賢司(泉澤祐希)と結衣(葵わかな)はオーディションで選ばせてもらったが等身大の子で、とてもよかった。親子4人がどう助け合うか。どう家族のきずなを取り戻していくか。

 −鹿児島にいる義之の父親(柄本明)の家まで行くことになる。

 大阪は電気が回復しているという情報があり自転車で高速道路を走って行くが、簡単にはたどりつけない。大阪で電気が回復していれば、そこから新幹線で鹿児島まで一気だと思うが、それは全く絵に描いた餅。雨に打たれ、増水した川でいかだを作って渡るなどのサバイバルが続くが、それは脚本を書く前に、実際に自分で体験したこと。水がなくなり、バッテリーの補充液を飲むシーンも体験で得たこと。

 −家族は生き延びられるか。

 それは映画を見て確かめてほしい。今の暮らしは本当に豊かなのか。失って初めて分かることもあり、もしかして同じようなことが現実に起こるかもしれない。その時、あなたは生き残れるか。映画でサバイバル体験をしてみてください。

 やぐち・しのぶ 1967年生まれ、神奈川県出身。大学で自主映画を撮り始め、93年「裸足のピクニック」で劇場監督デビュー。青春映画「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」でヒットメーカーになり「ハッピーフライト」「ロボジー」「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」など矢口ワールドを展開。今回新たな切り口に挑戦している。