日曜インタビュー

母と娘が交代する

映画「話す犬を、放す」
監督 熊谷まどか
2017年3月12日

明るくコミカルに

「コミカルで少しファンタジーにしたかった」と話す熊谷まどか監督=大阪市北区の梅田スカイビル
「話す犬を、放す」のつみきみほ(左)と田島令子=(C)2016埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

 自主映画時代からいろんな作品を撮っている熊谷まどか監督(48)が初めて手掛けた長編劇映画「話す犬を、放す」(アティカス配給)が25日から、大阪のテアトル梅田で公開される。「母と娘がある時立場を交代し、明るくコミカルに生きる姿に明日の希望を託した」という熊谷監督に話を聞いた。

■初の長編映画

 −自主映画界での活躍が多かった。

 CM制作会社などいろいろな職業に就いていたし、自主映画を撮り始めたのは2004年で、結婚してから。自主映画で長編を撮るのは大変で、何かきっかけがないと形にならない。今回は私の母親がレビー小体型認知症にかかったことで、あらためて介護も含めて母親と向き合う時間があったことで、今書かなければと書いた脚本が基になった。

 −母親と娘の物語になっている。

 60代の母親ユキエ(田島令子)がある日、「昔飼っていた犬のチロが家に来る」と40代の娘レイコ(つみきみほ)に告げる。心配した娘が彼女を病院に連れて行くと、レビー小体型認知症と言われる。それはその病気の人に見られる「幻視」の兆候。娘は同時に母親が赤ちゃんに戻っていくような気がする。

 −少し怖いような展開だが。

 怖いと言うよりも、最初は面倒くさいと思ったけど、仕事を減らして母の面倒をみていると、ご飯を作ることをはじめ、何事も母に習ったことをしているということを認識させられる。つまり、当たり前だけど、親子だから、人生がつながっている。今度は母親と娘が立場を反対にして生きたらいいのではないか。そう思うと脚本のペンが進んだ。そんなとき、埼玉県の川口市が映画の脚本を募集していた。

■かさぶたを解放

 −それで応募して映画化にこぎつけた。

 SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザがその母体で、かつてここで短編映画を撮っていたので、今回につながった経緯もあるが、これが長編映画デビュー作になった。私はここ10年、「かさぶた」を解放するような映画を撮ってきているので、その延長線上にあると思ったし、チャンスと思って取り組んだ。

 −レイコは独身で演劇の仕事をしている。

 私は結婚していて大分環境は違うが、レイコは芝居をしていて、まだ映画に出るという夢を持っており、そのチャンスが訪れる。その映画監督が、シングルマザーの山本(木乃江祐希)。彼女は若手の30代で、レイコと違って今の時代のかっこいい生き方をしている。母娘と同時にもう一人の女性を並べることによってドラマの幅が広がると思った。

 −母親の面倒を見るため、レイコは映画出演を諦める。

 母と立場を反対にすることを引き受けて生きることを覚悟する。その葛藤のプロセスを描こうと思った。ユキエの田島さんはアニメ「ベルサイユのばら」でオスカルだし、テレビ映画「地上最高の美女バイオニック・ジェミー」の声も担当した人。今もとてもおちゃめな人で撮影中は明るいし、一方のつみきさんもアイドル女優出身で明るい。現場はすごく楽しかった。

 −3人の女性映画になっている。

 自主映画から入って、私の作品が見る人とどうつながっているかがよく分からなかった。今回の映画は誰かに少しでも伝わってくれればうれしい。レビー小体型認知症のことも、そんな病気があることと、それをどう乗り越えるかというヒントになればいいと思う。母の病気は見つかって1年になるが、早くから投薬を受けているので状態は変わらずキープしている。

 くまがい・まどか 大阪府出身。同志社大卒業。CM制作会社などいろいろな職業に就いた後、2006年に発表した自主映画「はっこう」がPFFなどで高い評価を受ける。文化庁プロジェクト作品「?つき女の明けない夜明け」や「世の中はざらざらしている」など短編多数が国内外で上映されている。