亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

泉北郡高石市の「天狗」

2016年8月27日

人食い天狗 討伐大作戦

長い鼻をつかまれてギャ! イラスト((C)合間太郎)

 大阪府泉北郡高石市高石町に、以前は取石村(とりいしむら)と言われた村があった。その村に伝わる、ちょっと変わった天狗(てんぐ)の話。

 小高い山の上から天狗が見おろして、人が通るとひょいとつまんで食べるということが、度々おこった。当時の役人が「この付近には天狗が出るから危ない」と立札を立てると、天狗がちゃっかり「この付近に天狗はいないから危なくない」と書きかえるという始末。おかげでその後も、人が次々とさらわれた。

 そこで一計を案じた役人たちは、天狗の鼻が入るだけの穴をあけた木箱を作り、その中に子どもを入れ、山道に置き、隠れて見ていた。すると天狗がやってきて、珍しそうに木箱に近づくと、鼻を穴に突っ込んだ。中にいる子どもは、それ!とばかりに両手でぎゅうと鼻をつかむ。天狗が「痛い!」と叫んであばれだしたところを、役人たちが取りおさえ、縄でしばって重い石をくくりつけ、天狗を池に沈めたという。

 これは、山の神としての天狗というより、人さらい、悪い妖怪の類いであろう。ちなみに大阪の天狗として名が知られているのは、天満山の三尺坊(さんせきぼう)と堺ノ浦の太郎坊ぐらいと思う。三尺坊はもちろん天満宮鎮守(てんまんぐうちんじゅ)の天狗である。堺ノ浦の方は、堺の愛宕講(あたごこう)の人たちが京都の愛宕山の天狗、太郎坊を堺で信仰してできたもののような気がする。妖怪の中でも天狗は、固有の名前を持つことで知られているのだ。

 しかし、この取石村のような名もない天狗の話は全国におびただしくあって、伝統も伴わず、孤立している。だが、これらの天狗の方が人間と具体的な関わりがあって昔話として残るのである。この取石村の天狗は、立て札を書きかえるところが、他県にはないおもしろさと思う。

 (日本妖怪研究所所長)