亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

阪南市尾崎町えびのの浜

2017年6月5日

闇を払う“朝”の名刀

「鶏と朝日にはかなわん」イラスト?合間太郎

 古今東西、ほとんどの魔物は一番鶏が鳴けば退散し、朝日に当たれば消滅する。悪魔やその手先は闇の住人である。この話は阪南市のえびのの浜に伝わる。今とは景観がちがい、まだ松林が並んでいた頃、浜に怪物が出て夜更けに通った者は帰ってこない。どこに行ったのか、行方が分からないのだ。

 そんなある日「どんな怪物か、見てやろう」と武造と由吉という兄弟が言い出し、みんなが止めるのも聞かず身支度を始めたので、庄屋は「せめてこれを持って行け」とそれぞれに刀を渡した。由吉の刀のツバには鶏の彫り物があり、武造のツバには朝日の彫り物がある。2人は庄屋に礼を言い夜になって出掛けた。

 日もとっぷりと暮れた真っ暗闇な松林。見ると向こうから1人の女が子どもを抱えて歩いてくる。「よ〜いよい。とって食わそ、よ〜いよい。泣〜くな泣くな。今にええもん、とって食わそ」と歌いながらやってくる。変な歌ではあるが、声の美しさと姿の美しさに心を奪われ、2人はじっと見つめるばかり。すると、なんだか体がねばついてきた。

 これはおかしいと思ううちに、体中がねばねばしたものでぐるぐる巻きにされてしまった。女は2人に近づくと急に顔が大きくなり、口が耳まで裂け、かじりつこうとする。

 すると急に、由吉の刀のツバの鶏が「コケコッコー」と鳴きだした。女は「もう夜が明けるのか」と慌てだし、今度は武造のツバの朝日がまばゆいばかりの光を放ち、女を照らした。「ぎゃあ」っと悲鳴をあげて女は逃げだした。

 次の日、2人の帰りが遅いので庄屋たちが探しに来た。見ると、ねばねばしたものにぐるぐる巻きにされた2人が転がっている。そのねばねばを海水で洗い、あちこち探してみると大きな松の根っこに穴があいていて、真っ黒で巨大なクモが死んでいた。

 クモは本来益虫なのに、妖怪になるとよく人を襲うようである。

 (日本妖怪研究所所長)