亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

大阪市中央区千日前

2017年8月14日

2階にいる人食い青坊主

「化け地蔵、青坊主になる」イラスト(C)合間太郎

 これは明治14年、千日前(元の南区南阪町)での出来事。武藤平三郎という男が妻と7歳になる娘を連れて2階建ての借家に引っ越してきた。家族にとって2階建ての家はあこがれで、ウキウキしながら家財道具を運ぶ。ようやく1階に荷物を運び込んだら夜になり、疲れてそのまま荷物の間で眠り込んでしまった。

 次の日、早く起きた娘は新しい家の2階が見たくて階段を上がって行き、2階をのぞいたとたん「キャー」という声とともにころがり落ちてきた。何事かと思ったが、泣きながらふるえているだけでよくわからない。平三郎が自分で確かめようと階段を上がると、男の彼でさえも「ギャー」と叫んで駆け降りてくる。

 そのまま妻と娘を連れて大家の家に駆け込み「大家さん、借りた家に人食いの青坊主が出ました」と言う。「何を寝ぼけたことを。そんならわしが見てやろう」と大家がやってきて2階へ上がった。ところが大家も同じように「ウワー」と、ころがり落ちてくる。

 その声を聞いて長屋の連中も集まってきた。大家が「でっかい青坊主がおるんや。うまそうに人の手足をしゃぶっとった」と言うので、おそるおそる長屋の連中も上がっていくと、全員が気ぬけした。青坊主と思ったのは座った姿の青黒く光った地蔵であった。

 後で聞いたところによると、平三郎一家が引っ越してくる前は、長堀橋筋で菓子屋を営んでいた松栄堂が堀江の火事で一時、この家を借りて住んでいたという。松栄堂は何百年も前の地蔵の木像を祭っていて、火事で持ち出したはいいが必要と思わずそのまま置いていったという。なぜ青坊主になったかわからないが、気持ちが悪いので四天王寺に納めた。その後、どうなったかは知らない。置き去りにされた怨(うら)みなのかどうかわからないが、地蔵が化けるいわゆる「化け地蔵」の話は各地にある。折を見て紹介したい。

 (日本妖怪研究所所長)