亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

箕面市粟生間谷

2017年9月25日

つるりとなでると同じ顔

「乳母が怖い!」イラスト(C)合間太郎

 1850(嘉永3)年に出された青木鷺水(ろすい)著『御伽(おとぎ)百物語』から、摂津国勝尾の里(箕面市粟生間谷(あおまたに))での話。そこに忠五郎という男がいて、かわいい娘が生まれた。ところが妻の乳の出が悪い。そこで芥川の里(高槻市芥川町)から、男の子を産んだばかりで夫と死別したという女に、乳母として来てもらうことにした。彼女は忠五郎の娘と自分の息子を分けへだてなく大事に育て、忠五郎の妻も2人に同じ物を与えて愛し、4年が過ぎた。

 ある日、妻が外でリンゴを一つもらったので、家で何げなく自分の娘に与えた。それを見た乳母が急に鬼の顔となり「今まで同じように育てたのに、どうしてリンゴを二つに分けなかったのか」と恐ろしい声でまくしたて、娘をとらえて息を吹きかけた。そして、顔をつるりとなでると乳母の息子とうり二つになり、声まで同じになった。仰天した忠五郎夫婦は心よりあやまり、金銀を集めて乳母に渡すと乳母はもう一度娘をなでた。すると娘は元の姿に戻り、乳母は金銀を2人に分け与えた。

 その後、乳母はまた元のようによく働いたが、忠五郎夫婦は怖くて仕方がない。ある夕暮れ時、見ると乳母の影が人間ではない奇怪な形をしている。忠五郎は化け物と確信して、鍬(くわ)を乳母の頭めがけて振り下ろした。しかし、鍬は鉄板に当たったかのようにはじかれてしまった。

 振り向いた乳母はまたも鬼となって「お前の心はようわかった。もう出て行かぬから、そう思え」と言い、それからは乳母を恐れて暮らす毎日。妻が勝尾寺の住職に相談すると「化け物が退散する祈祷(きとう)をしてあげよう。しかし、これは長くかかるぞ」と言われるが10年ほどたったある日、こつぜんと乳母と息子がいなくなった。そしてそれからは二度と姿を見せず、娘も大きくなり婿を迎えて一家は幸せに暮らしたという。

 子供を同じに変えるところに怖さを感じる一話。子がいる山姥かもしれない。

 (日本妖怪研究所所長)