亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

河内長野市天見

2018年10月29日

伊勢神宮の社殿になった松の木

「いい松の木じゃろ」(イラスト(C)合間太郎)

 伊勢神宮の造替(ぞうたい)工事を行った大工の棟梁(とうりょう)の話。

 工事のためには、どうしても親柱に使う松の大木が必要だが、なかなか見つからない。棟梁自ら山野を歩いて探すが思うものがない。そんなある日、一人の老人がやってきて「私は天見(あまみ)に住む松右衛門という者じゃが、いい松の木をさしあげましょう」と言う。半信半疑であくる日、工事現場に行ってみると棟梁が理想としていたのと同じ松の大木が置かれていた。おかげで工事は進行し、見事な社殿が完成した。

 そこで松右衛門さんにお礼を言いたくて、天見のあちこちでたずねてみるが、誰も松右衛門さんのことを知らない。ただ、一人のきこりが「松と言うと、不思議なことがあった」と言い、山の奥まで案内してくれた。そこには、大きな松の切り株があり「何百年もたった松の大木が、一夜でこの切り株だけになったんです」と言う。どこにも切り株より上にあった松の木がない。まるでどこかに飛んで行ったかのようだ。

 それを見た棟梁は、松右衛門さんとは、この松の精霊だったことに気づくのである。

 松に霊が宿る話は多い。有名な三保の松原の「羽衣伝説」で、天女が羽衣をかけるのが松だし、福岡の住吉神社では、傾いていた松の木が一夜にしてまっすぐになった「一夜の松」の伝説がある。弘法大師が唐から日本へ真言密教を広めるのにふさわしい地を見つけるため、密教の法具「三鈷杵(さんこしょう)」を投げると高野山の松の木の上に落ちた。他にもさまざまな伝説が松にはある。一年中、緑色が変わらないので不老長寿など、不思議な力があると考えられたようだ。

 この話の松の木も、長生きをして、自ら伊勢神宮の社殿になることを望んだのだろう。大木の最後(生まれかわり)にふさわしい。

 (日本妖怪研究所所長)