コラム

[野分 大阪発・論点] 開示された赤木ファイル 大それた行為、誰が発案

2021年7月1日

 財務省近畿財務局で上司に公文書の改ざんを強要され、命を絶った赤木俊夫さん。彼が残した「赤木ファイル」が、ようやく開示された。それで分かった新事実。改ざんの最初の指示は、安倍晋三前首相や妻の昭恵さん、麻生太郎財務大臣らの名前を削ることだった。財務省が何を気にしたかが分かる。佐川宣寿理財局長(当時)の直接の指示で国会答弁に合わせて書き換えた。

 だが、分からないことも残る。こんな大それた行為を誰が発案したのか? 佐川氏に指示した人物はいないのか? 本省内で改ざんはどのように指示伝達されたのか? そこはまだ分からない。

 だから妻の赤木雅子さんは、第三者による再調査を訴えているが、麻生財務大臣は早々に「再調査はしない」と言い放った。

 そんなさなか、あるツイートを目にした雅子さんは声を絞り出すように言った。「夫は、これで3回殺されたんですね…」。ツイートは、安倍晋三前首相その人の公式ツイッターのもの。3回殺されたとは?

 1回目は、俊夫さんが改ざんをさせられた苦しみから死に追い込まれたことを指す。2回目は、雅子さんが去年3月、国などを相手に裁判を起こし真相解明の再調査を求めた時、安倍首相(当時)や麻生財務大臣が「必要ない」と否定したこと。国は赤木ファイルの存在も認めなかった。そして3回目は、ようやく赤木ファイルが開示された2日後、安倍前首相の公式ツイッターでつぶやかれたツイートだ。

 『赤木氏は明確に記している。「現場として(森友学園を)厚遇した事実はない」この証言が所謂(いわゆる)「報道しない自由」によって握り潰(つぶ)されています。《秘書アップ》』

 赤木ファイルの冒頭で、俊夫さんは確かにこう記している。

 「本省(財務省)の問題意識は、調書から相手方(森友)に厚遇したと受け取られるおそれのある部分は削除するとの考え。現場として厚遇した事実もないし、(会計)検査院等にも原調書のままで説明するのが適切と繰り返し意見(相当程度の意思表示し修正に抵抗)した」

 この「現場として厚遇した事実もない」という部分を捉え、安倍前首相の公式ツイートは、改ざんの発端となった森友学園との国有地の取引は「厚遇ではない=問題ない」と解釈。それを報じないマスコミに「報道しない自由で握り潰されている」と揶揄(やゆ)した。背景事情を知らないと、もっともらしく思える。

 だが、赤木俊夫さんは公文書改ざんの当事者ではあるが、国有地取引の当事者ではない。問題の国有地が森友学園に8億円も値引きして売却されたのは2016年6月。地中のごみが理由とされたが、誰もその存在を確認していない。

 一方、俊夫さんが担当部署に異動してきたのは翌7月だ。つまり俊夫さんは交渉に一切関わっておらず、取引の経緯を知らないのである。

 なのになぜ「厚遇していない」と書いたのか? それは俊夫さんの上司で売買交渉に携わっていた池田靖統括国有財産管理官(当時)が、俊夫さんにそう話していたからだ。雅子さんは覚えている。

 「夫は池田さんのことを信頼していました。年下の上司でしたけど、尊敬できると。森友問題が発覚した当初は『池田さんから取引におかしなことはないと聞いている』と話していました。だからあのように書いたんでしょう」

 しかし、時がたつにつれ俊夫さんは池田さんへの不信感を強めていく。決定的だったのはその年の人事異動。改ざんを気に病んでいた俊夫さんは、別の部署への異動を希望していた。池田さんは「たぶん大丈夫」と請け合っていたが、実際には俊夫さんだけが残され、池田さんをはじめほかの職員は皆異動していなくなった。しかも異動後、問題の国有地取引に関する資料が職場から消えていたのだ。

 「それがとにかくショックやった」と俊夫さんは話したという。「むっちゃ落ち込んでました。一人だけポツンと残されて、資料はすべて処分されて…夫に取引の真相を知られたくなかったんですよね。あんまりです」

 直後、俊夫さんはうつ病と診断され休職し、職場に戻ることはなかった。そして休職中、あれほど尊敬していた池田さんについて不満を漏らした。

 「池田さんは仕事が雑や。ちゃんと(国有地を)売っていたらこんなことにならんかった。大学に売っとったらよかったんや」

 大学とは、問題の国有地の隣にある大阪音楽大学のこと。森友学園より先にこの土地の購入を希望し、7億円以上の金額を提示したとされるが、近畿財務局は売らなかった。それを森友学園には1億3400万円で売った。これが厚遇でなくて何だろう。俊夫さんは取引に問題があることをさとっただろう。だが休職中なので、赤木ファイルを書き換えることはできなかった。

◇   ◇   ◇

 8億円の値引きに問題があったことは、そもそも売買の当事者である池田さん自身が、俊夫さんの死後、雅子さんに認めている。

 「この8億の算出に問題があるわけなんです。確実に(地中のごみを)撤去する費用が8億になるかという確信と言うか、確証が取れてないんです」

 さらに池田さんは学園との交渉で「(籠池)理事長がおっしゃるゼロ円に近い金額まで、私はできるだけ努力する作業を今やっています」と発言している。まさに厚遇そのものだ。これらの発言は、すべて録音データで裏付けがある。

 だから「厚遇した事実もない」と書かれていても、それは俊夫さんの実体験ではなく、土地を売った池田さんの言い訳にすぎない。当時の首相なら分かっていて当然だが、公式ツイッターはこれ幸いと「厚遇した事実はない」と強弁する。

 改ざんは安倍前首相が国会で「(土地取引に)私や妻が関係していたら、総理大臣も国会議員も辞める」と大見えを切ったのが発端だと、財務省も認めている。それで改ざんをさせられた赤木俊夫さんが死に追い込まれた。

 なのに知らんぷりで再調査を拒否。そして今回の「第三の殺人」とも言えるツイート。すべては改ざんを巡る俊夫さんの告発を、「なかったこと」にしようとしている。雅子さんは語る。

 「夫が死に物狂いで残した赤木ファイルを、汚されたような気持ちがします。安倍さんは自分の発言が改ざんを招いた責任を感じてほしいです」

 夫を3回殺されたと感じることについては…。「何回殺されても、私は何回でも助けに行きますから。諦めません」

(大阪日日新聞編集局長・記者、相澤冬樹)

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