岡力の「のぞき見雑記帳」

上町「とある」店主 葛原直人さん

2018年3月12日

一風変わった界隈とお店の話

カウンター越しで調理風景を眺めるのも楽しい

 全国的にも珍しいアルファベットが街区符号に使われている中央区上町界隈(かいわい)。今回は、そこにある「とある」お店のお話。

 昨年12月にオープンしたおでん専門店、その名も「とある」。ステンレス製のカウンター越しで手際よく切り盛りするのが店主の葛原直人さんである。一風変わったネーミングは「誰からも気持ちを持ってもらえる場所にしたい」という思いから名付けた。

 市内を南北につき出す地形から「大阪の背骨」と称される上町台地の歴史に興味を持ち、46年続いたスナックを居抜きで借りて開業した。心地よい空気が流れる店内、近隣の空堀商店街で材料を仕入れて作ったアテをつつきながら、地元民と若者がうまく融和している。

 一見、料理の世界一筋で修業してきた風貌の葛原さんだが、経歴も異色である。大阪府出身、学生時代は芸術分野の学府として名高い京都市立芸術大で版画を専攻し創作活動に励んだ。学業の傍ら祇園のスナックで働き、卒業後は印刷会社に就職。しかしサラリーマン生活は長く続かず自然と飲食業界へ引かれていった。ラーメン店、そば屋とジャンルを問わずさまざまな店舗で経験を積んだ。自慢のおでんは大阪を代表する老舗、接客は奈良県の洞川温泉にある旅館で学んだ。

 常時、14種と季節の変わり種がクツクツと煮えるおでん鍋。こだわりのだしにくぐらせたカキやサーモンなどの生食材は絶品である。「念願だった自分の場所が持てたのでこれまでやってきたことを凝縮させ地元と関わっていきたいです」。今日も葛原さんが創りだした空間で、彩り豊かなコミュニティーがゆっくり煮込まれていく。(コラムニスト)

 ■お酒・ごはん・おでん 上町「とある」
 営業時間は平日午後5時〜午前0時、土日祝午後3時〜午前0時、月曜定休、大阪市中央区上町A番22号、電話090(5139)1216。