民藝(みんげい)は、暮らしのなかで生まれ育まれた道具で、その土地の風土や人々の思いが反映されています。それぞれの土地の身近な材料を使い、受け継がれてきた方法に沿って作られるので、用途が同じであっても、出来上がったものは異なります。ですが食事を楽しみ、子の健やかな成長を願い、実直な姿勢など、物づくりの根にあるものは共通しています。だから民藝は親しみやすく、その国や文化を理解するのにふさわしい素材です。
吉田璋也(1898~1972年)は民藝がもつこの面に注目し、民藝を通して一人一人が小さな理解を積み重ねたその先に平和な世界を思い描いており、「世界平和と民藝」と題した文章を残しています。吉田のこの願いに触れ、多くの方々と思いを共有したく、鳥取民藝美術館の今期展示は、吉田コレクションの中から中東やヨーロッパなどの海外の民藝を中心にご紹介する展示を企画しました。
展示品は、椅子、燭台(しょくだい)、土鍋、スプーンなどの暮らしの道具です。この中の一つにイランで9世紀ごろに作られた焼き物のボウルがあります。器からはみ出さんばかりに鳥が描かれていますが、目がくりっとして、脚を踏ん張り元気いっぱいな印象で、見ていると心がゆるみふと笑みがこぼれます。
作った人は大地に腰を下ろし、やんちゃなわが子を思いながら絵付けをしていたのでしょうか。またどんな家族が使っていたのかな、などと想像しながら見ていると、今の私たちの日々の暮らしから遠く離れた国や時代の物でも親近感が湧いてきます。
ぜひ実際に見て「いいなぁ」と感じ、作品を通して作った人や暮らしに思いを馳(は)せていただけましたら幸いです。
(東方あかね・鳥取民藝美術館学芸員)