亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

摂津市千里丘

2018年7月10日

棺桶を置いて帰って「投げ出し墓」

棺桶から「で、出たあ〜」(イラスト(C)合間太郎)

 「山行き」や「山入り」というのは、田仕事を始めるまで山におられる神様と、一緒に食事をする行事。摂津では昔、毎年4月18日(もっと昔は15日だったとか)に行われ、学校でも授業は午前中で切り上げて、午後から似禅寺(じせんじ)というお寺の上の小丘「じねんじ山」で、村人がお酒や弁当を持って山行きを行った。摂津に限らず山行きは全国で行われ、お花見かピクニックといった感じの楽しい行事だったらしい。

 さて、そのじねんじ山近くで起こった出来事である。

 ある日、村の一人者の男が死んだ。身寄りもないので村人たちが棺桶(かんおけ)に入れ、焼き場までかついで行くことにした。

 ところがいわゆる「一天にわかにかき曇り」というやつで、あたりは真っ暗。おまけに雷は鳴るわ、どしゃぶりの雨になるわの大騒ぎ。これでは焼き場に行っても焼くこともできんと、棺桶を木陰に置いてその日は帰った。

 夜ふけになって雨がやんできた頃、村に向かう男が棺桶のそばを通りかかると、なにやらギギギギギイと妙な音がする。見ると棺桶のふたが開いて青白い顔の男が手を伸ばし、「おいでおいで」している。男はギャーッと一目散に駆けて村に着き、みんなに知らせた。

 次の日「怖がりめ」「そんなことあるか」と言われつつ、昨日の続きで焼き場に持って行かねばならんと、大勢で棺桶の所までやってきた。

 しかし、昨日置いた場所に棺桶が見あたらん。どこを探しても、何日たっても見つからず、いつしかその場所を「投げ出し墓」と呼ぶようになった。夜ふけに行くと、足が止まって動かんかったとか、決まって雨が降り出すとか言われた。じねんじ山の近くの亀岡街道沿いで、よく追いはぎも出たという。

 (日本妖怪研究所所長)


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