今年4月に亡くなったペルーのノーベル賞作家、マリオ・バルガス=リョサ(ジョサ)は、ストーリー・テラーとして傑出した才能を持ち、巧緻な構造、独創的な文体、社会への鋭いまなざしなど、幾つもの観点から総合的に論じられている巨匠である。しかしまた、彼が小説の中にしばしば登場させた音楽――特に<ムシカ・クリオージャ(クリオーリャ)>と呼ばれる母国の大衆音楽――に興味を向けるのも、おそらく楽しみの多い読書になるのではないか。少なくとも本コラムの筆者はそのように感じている。お付き合い願えるだろうか。
本論に入る前に、2つばかり断っておくべきことがある。その1。いま<リョサ(ジョサ)>、<クリオージャ(クリオーリャ)>と不統一な書き方をしたのは、スペイン語の<LL>が片仮名表記される際、リャ行、ジャ行、あるいはヤ行でとまちまちになっているからである。スペイン語話者の発音そのものに地域差があるとも聞く。この件に関して私は門外漢なので、とりあえず多く目にした表記を採用し、Llosa は<リョサ>、criollaは<クリオージャ>でいくことにする。
その2。ムシカ・クリオージャは、ヨーロッパ、アフリカ、ア...