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愛染さんの多宝塔被災 台風21号の傷痕

2018年9月11日

 近畿地方を襲った台風21号は、交通網やインフラ、住宅などに甚大な被害をもたらした。先人から脈々と受け継がれてきた文化財も例外ではなく、大阪市内では市内最古の木造建造物で、国の重要文化財の愛染堂勝鬘(しょうまん)院(天王寺区)の多宝塔が被災した。強風によって多くの瓦が吹き飛ばされるなど自然の猛威が、古建造物に大きな傷痕を残した。

強風で瓦のほとんどが吹き飛ばされた多宝塔。亀腹も損傷した=7日、大阪市天王寺区の愛染堂勝鬘院
室戸台風後の1936年に修復された瓦も破損

 “愛染さん”の呼び名で親しまれる愛染堂は和宗総本山四天王寺の支院。多宝塔は同寺創建の聖徳太子によって593年に建てられたと伝わり、豊臣秀吉が1597(慶長2)年に再建した。

 その後の「大坂の陣」でも無事。近代では1934(昭和9)年の室戸台風で被災したが倒壊は免れ、戦時中の大阪大空襲では境内が焼夷(しょうい)弾で被災する中、奇跡的に焼け残った。

■目を疑う

 今回の台風21号の被害としては、上層・下層の屋根瓦の大部分が飛散。鬼瓦から直線に連なる棟瓦もごっそり失われた。瓦以外では、上下層の間にある「亀腹(かめばら)」と呼ばれる白しっくい部分の一部が剥落したほか、頂上の九輪塔に掛かる鎖と風鐸(ふうたく)が強風で大きくずれた。

 山岡武明住職は4日に強風が収まってから、境内の被害を確認したところ、無残な多宝塔を目の当たりにした。風向きの関係で瓦は南以外の三方向に飛散。ほぼ境内に落下しており人的被害などはなかったが「戦災や風雪にも耐えてきたので、まさかと目を疑った」と惨状を振り返る。

■後世に残す

 文化財毀損(きそん)の場合、所在地の行政が被害を確認して国に報告するという流れから、6日に市教委文化財保護課が現地を調査。破損した瓦の中には、江戸期のものと思われる瓦のほか、室戸台風被害の修復で36年に施工された際の瓦が混在していることが分かった。後者には「昭和十一年修補」の刻印も残っていた。

 多宝塔は2010年から3年がかりで、塔内の壁画と柱絵の修復(剥落止め)が施されたが、外観の大規模修復は室戸台風以来約80年ぶりとなる。

 山岡住職によると、今後は文化庁の指導の下で修復工事が必要だが、現状で着工時期や工期などは未定という。

 「まず人的被害がなかったことが幸い。貴重な文化財を後世に残す義務があり、ここ以外でも台風被害を受けた多くの文化財が早く元の姿に戻ってほしい。被害は無念だが、修復を通じて多宝塔を調査できる機会でもある。新たな歴史として、しっかり記録に残したい」と前向きに語った。