科学分野で定評のあるブルーバックスから刊行された「登山と身体の科学」(山本正嘉著)は、登山歴50年の鹿屋体育大名誉教授が、山で疲れない歩き方や栄養補給、効率的なトレーニング方法などをさまざまなデータに基づいて説いている。
サブタイトルは「運動生理学から見た合理的な登山術」。読みやすく、実用的な科学読み物というのが、本書の最初の顔だろう。私も山を歩くのは好きで、本書から楽しく有益なアドバイスを受けた。
同時にあることに気付いた。あくまで私の感覚に過ぎないが、もう一つのアドバイスが浮かんできたのだ。
例えばこの一節。「ごくゆっくり歩くように心がければ、疲れをそれほど感じずに上り続けられるはずなのです。多くの登山者が上りでつらいと感じているのは、歩くペースが速すぎるという、ごく単純な理由からなのです」
実にシンプルな手ほどき。私も山に行くと特に登り始めがつらい。町で暮らす性急さを持ち込んだからか。それならゆっくり行けばいい。
何でも人生になぞらえるのがうっとうしいのは分かるが、これは私たちの日々にも当てはまる。うまくいかなかったり、気持ちがふさいだりするなら、じたばたせずにゆっくりやればい...