実を言うと、どうしても見たいと思っていた映画ではなかった。原作本がベストセラーになったのは記憶に新しく、何となく内容が予想できていた。安心できる笑い、ホロリとさせるエピソード。シニア層向けに作られた、いかにもちょっと前の日本映画というイメージを持っていた。佐藤愛子原作、草笛光子主演の「九十歳。何がめでたい」である。
おや?と思ったのは、公開初週の全国映画トップ10(興行通信社調べ)を見たときだ。ハリウッド映画にかつてほどの集客力がないとはいえ、ウィル・スミス主演の人気シリーズ最新作「バッドボーイズ RIDE OR DIE」を上回る2位。何が人々を引きつけるのかが気になり、映画館へ足を運んだ。客席は自分より白髪の多い高齢者が大半だが、20~30代とおぼしき若者もいて、意外に年齢層は幅広い。
最後の長編を書き終えて断筆宣言をした90歳の作家佐藤(草笛)は、テレビを見たり新聞を読んだりと退屈な毎日を送っていた。ある日、時代遅れの中年編集者吉川(唐沢寿明)がエッセーの依頼にやってくる。「書かない、書けない、書きたくない」とかたくなに断り続ける佐藤だったが、吉川のあの手この手の誘いに根負けし、...