吉武英行 五感の旅

旅人に教えられる

2021年8月23日
旅人の言葉で地元の魅力を再発見

 真夏の到来とともに、暑中見舞いのはがきが届き始める。夏を感じる一瞬だ。ほとんどのはがきが時候のあいさつが多いけれど、時には封書で近況を知らせてくれるうれしい便りもある。丹後半島のお宿の女将(おかみ)からの手紙も一言添えられたものだった。

 深夜、げた履きで出かけたまま帰らないお客さまがいて、スタッフ一同が心配したというエピソードが書かれていた。そのお客さまは小一時間して帰館したとのことだが、帰るなり「あまりに星空がきれいだったから」と言ったそうな。女将以下スタッフみんなも思わず外に出て見上げると、初夏の夜空に星くずがいっぱい。というわけで、お客さまから土地柄の良さを教えられたことになったそうだ。お客さまが戻ってホッとした雰囲気、改めて見上げる「いつも見ているはず」の夜空の美しさが伝わってくる名文だった。

 お客さまから教えられたことを素直に飾らずに表現しているから、短文でも気持ちが伝わる。結局、お客さま本位の経営が一番ということだが、なんだかんだ言っても、お客さまの方が、地域の良さをきちんとつかまえているケースも多い。地元の人にとって当たり前のことが、「旅情」になっていることが多いのだからその言い分に耳を傾けることで、わが宿の魅力を再発見できるはずだ。

 旅情を味わいにくるお客さまそのものが、実はたくさんの「旅情」を運んでくる。丹後の宿の女将は、そんなお客さまが持ってくる「旅することの感情」をしっかり察知し、受け止めて報告してくれた。媒体は暑中見舞いのはがきでも、これまた立派な旅情を運んでくれた。お宿ビジネスは奥が深い。

 (ホテル・旅館プロデューサー)



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